憲法第三七条前段所定の弁護人に依頼する権利は被告人が自ら行使すべきもので同条項は裁判所が被告人に対し国選弁護人の選任を請求し得る旨を告知すべき義務を課したものではなく、裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与えたこの行使を妨げなければならないのである。(昭和二四年(れ)第二三八号同二四年一一月三〇日大法廷判決参照)然るに、本件において被告人は第一審大阪地方裁判所の弁護人選任に対する通知に対し弁護人は私選する旨回答し、且つ弁護人を私選し、原審においても国選弁護人の選任を請求せず却つて控訴趣意書提出期間経過後の昭和二五年六月一日自ら弁護人を選任し同弁護人は同年六月一六日の第一回公判期日に出頭の上被告人提出の控訴意趣書に基いて異議なく弁論を終了していることは本件記録に徴し明らかである。そして被告人が弁護人において控訴趣意提出期間内に控訴趣意書を提出できるような適当な時期に弁護人を選任しなかつたことは正に被告人の懈怠に基くものであつて記録を精査しても原審が被告憲法第三七条三項によつて保障された弁護人選任権の行使を妨げた事跡はとうてい認められない。
控訴趣意書提出期間経過後に選任された弁護人に控訴趣意書を提出させる措置を採らないことと憲法三七条第三項
憲法37条3項,刑訴法414条,刑訴法272条,刑訴法289条
判旨
憲法37条3項の弁護人依頼権は被告人が自ら行使すべきものであり、裁判所には国選弁護人の請求権を告知する義務はない。被告人が自ら適切に弁護人を選任せず、控訴趣意書提出期間を徒過したとしても、裁判所がその行使を妨げない限り、同条項違反とはならない。
問題の所在(論点)
裁判所が被告人に対し国選弁護人の選任を請求し得る旨を告知しなかったこと、および被告人の懈怠により控訴趣意書提出期間内に弁護人が選任されなかったことが、憲法37条3項の弁護人依頼権を侵害するか。
規範
憲法37条3項前段の弁護人に依頼する権利は、被告人が自ら行使すべき性質のものである。したがって、同条項は裁判所に対し、被告人へ国選弁護人の選任請求権を告知すべき義務を課すものではない。裁判所は、被告人に当該権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ、憲法上の要請を充足していると解すべきである。
重要事実
被告人は第一審において、裁判所の弁護人選任に関する通知に対し「弁護人は私選する」旨を回答し、実際に私選弁護人を選任した。控訴審においても、被告人は国選弁護人の選任を請求せず、控訴趣意書提出期間経過後に自ら弁護人を選任した。選任された弁護人は、第1回公判期日に出頭し、被告人が提出した控訴趣意書に基づいて異議なく弁論を終了した。
あてはめ
被告人は自ら私選弁護人を選任する意思を示し、実際に行使する機会を与えられていた。控訴趣意書提出期間内に弁護人が選任されず、弁護人名義の趣意書が提出できなかったのは、被告人が適当な時期に選任しなかったという「被告人の懈怠」に基づくものである。裁判所が被告人の権利行使を妨げた事実は認められず、告知義務の欠如も憲法違反とはならない。選任された弁護人は公判で異議なく弁論を行っており、実質的な防御権も保障されていたといえる。
結論
本件における裁判所の措置に憲法37条3項違反の違憲性は認められず、上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
弁護人依頼権の主体性(被告人自身の責任)を強調する判例であり、告知義務の不存在を確認している。答案上は、弁護人不在のまま手続きが進んだ場合の違憲性を論じる際、裁判所による「機会の付与」と「行使の妨害の有無」という二点から形式的な合憲性を検討する枠組みとして利用できる。
事件番号: 昭和25(あ)1712 / 裁判年月日: 昭和26年7月3日 / 結論: 棄却
原審裁判所が控訴申立事件を受理するや直ちに被告人に弁護人の選任を請求することができる旨告知せず、又被告人も亦これが請求をしないで控訴趣意提出期間を経過しその後になつて始めて被告人は右請求をなし原裁判所が弁護人を選任したため、同弁護人は控訴趣意書を提出することができなくなつたからといつて、原裁判所は、被告人に対しその弁護…