判旨
必要的弁護事件において、国選弁護人の選任が控訴趣意書の提出期限後となったとしても、弁護人が期限の延長を求めず公判で弁論を行い、被告人の権利行使が実質的に妨げられていないのであれば、直ちに憲法及び刑訴法に違反しない。
問題の所在(論点)
控訴審の必要的弁護事件において、裁判所が弁護人の選任を控訴趣意書提出期限後に行った場合、それが弁護権の不当な制限として憲法37条3項及び刑訴法36条等に違反し、上告理由となるか。
規範
必要的弁護事件(刑訴法289条1項)において、国選弁護人の選任が遅延し、控訴趣意書提出の最終日(刑訴規則236条等)を経過した後に至った場合であっても、①弁護人が自ら控訴趣意書を提出するために最終日の変更(刑訴規則238条)等の請求をせず、②公判期日に異議なく被告人提出の控訴趣意書に基づいて弁論を行い、③結審に至ったときは、被告人の弁護を受ける権利(憲法37条3項)を妨げたとはいえず、刑訴法36条にも違反しない。
重要事実
被告人は必要的弁護事件で起訴され、控訴審において原裁判所からの弁護人選任に関する照会に応じなかった。原審は、控訴趣意書の提出期限が過ぎた後に初めて被告人のため国選弁護人を選任した。選任された弁護人は、提出期限の変更申し立て等を行わず、被告人が自ら作成・提出した控訴趣意書に基づいて公判で弁論を行い、訴訟はそのまま結審した。なお、被告人は第一審において公訴事実を自白していた。
あてはめ
本件では、原審による弁護人選任が期限後になされた点は適切とはいえないが、選任された弁護人は期限の変更等を請求せずに公判に臨んでいる。また、弁護人は被告人提出の控訴趣意書に基づき異議なく弁論を行い結審に至っており、手続経過は先行判例(最判昭32.6.19)と同様である。被告人が第一審で自白していることも考慮すれば、選任の遅延が判決に影響を及ぼしたとは認められず、実質的な弁護権の行使不能があったとはいえない。
結論
原審の措置は憲法37条3項、刑訴法36条等に違反せず、弁護権を不当に侵害したものではないため、本件上告を棄却する。
実務上の射程
必要的弁護事件における弁護人欠如と手続の有効性に関する判断枠組み。形式的な選任の遅れよりも、弁護人が選任後に取った対応や、被告人の防御に実質的な不利益が生じたかを重視する。答案では「実質的な弁護権の保障」の観点から、弁護人の訴訟行為(異議の有無等)に注目してあてはめる際に用いる。
事件番号: 昭和31(あ)3848 / 裁判年月日: 昭和32年6月19日 / 結論: 棄却
控訴審が被告人から貧困を理由に国選弁護人選任の請求があつたのにその選任を遅延し、控訴趣意書差出最終日を経過した後に至り国選弁護人を選任した場合において、改めて同弁護人に対し控訴趣意書を提出する機会を与える措置をとらなかつたとしても、同弁護人において自ら控訴趣意書を提出するため右最終日の変更方その他格別の請求をすることな…