原審は昭和二九年八月二七日、公訴趣意書提出の最終日を同年九月二九日と指定し、その指定通知書と共に、弁護人を選任するか否かの照会書を被告人等三名に送達し、なお当時被告人Aには弁護士古屋東が弁護人として選任届出がされていたので同弁護人にも右指定通知書を送達したところ、被告人Bは、同年八月二八日右弁護士古屋東を弁護人に選任の届出を提出し、右控訴趣意書提出期間内に被告人B並に同Aは自ら控訴趣意書を提出すると共に、被告人Aのためには古屋弁護人からも適法に控訴趣意書が提出された。又被告人Cは同年九月二四日自ら控訴趣意書を適法に提出すると共に、自己の弁護人は自ら選任する旨の回答を提出した。然るに同年一〇月一日に至り、被告人B及び同A両名の古屋弁護人から右両名に対する弁護を辞任する旨届出た。一方被告人Cからは控訴趣意書提出期間を経過するも弁護人選任届なく裁判所に対し弁護人選任の請求もしなかつたので、原審は本件が必要的弁護事件であるに鑑み同年一〇年四月被告人等三名の為弁護士上野利喜雄を弁護人に選任した上公判期日を同年一〇月二八日と指定し、被告人三名に同日の召喚状を送達したが同月二七日に至り、被告人A、同Cの関係において、弁護人上野利喜雄を解任し、被告人Aのために弁護人大久保銅三を、被告人Cのために弁護士新崎武外を弁護人に選任し、同年一〇月二八日の公判期日には被告人等の右各弁護人及び被告人Bが出廷し、被告人等及び前記弁護人古屋東提出の各控訴趣意書に基き弁論をし結審した事実を認めることができる。してみれば原審は何ら被告人等の弁護権を制限した事実は存しない。
必要的弁護事件において弁護権を不法に制限したことにならない一事例
刑訴法289条,刑訴法389条,刑訴法391条,刑訴規則236条1項
判旨
控訴趣意書の提出期間終了後に弁護人が交代し、または新たに選任された場合であっても、期間内に適法な控訴趣意書が提出されており、公判期日に新任の弁護人が出席して弁論を行っているならば、弁護権を制限した違憲の事実はない。
問題の所在(論点)
控訴趣意書の提出期限後に弁護人が交代、あるいは新たに選任された状況において、提出済みの控訴趣意書に基づき公判審理を進めることが、憲法37条の保障する弁護権を不当に制限する(刑事訴訟法違反ないし違憲となる)か。
規範
被告人に弁護人等の援助を受ける権利を保障する憲法37条の趣旨に照らし、裁判所が適正な手続により弁護人選任の機会を与え、かつ、実際に選任された弁護人が公判期日に出廷して有効な弁論を行う機会を保障している場合には、弁護権を制限したものとはいえない。
重要事実
必要的弁護事件の控訴審において、原審は被告人らに対し控訴趣意書の提出期限を指定し、弁護人選任の照会を行った。期限内に被告人ら及び当時の弁護人から適法に控訴趣意書が提出されたが、期限経過後に当時の弁護人が辞任し、また別の被告人は弁護人を選任しなかった。そのため裁判所は職権で国選弁護人を選任したが、公判前日に一部の被告人の弁護人を解任・再選任した。最終的に公判期日には、各被告人の弁護人が出廷し、既に提出されていた控訴趣意書に基づき弁論を行って結審した。
あてはめ
本件では、控訴趣意書の提出期間内に、被告人ら自身または当時の弁護人によって適法な控訴趣意書が提出されており、不服申し立ての基礎は既に確立していた。その後の弁護人の交代は、必要的弁護事件としての欠缺を補充するためのものであり、実際に指定された公判期日には新任の弁護人らが出廷している。これらの弁護人は、先行して提出された控訴趣意書の内容に基づき弁論を行うことが可能であったと認められる。したがって、手続の過程において被告人の防御権が実質的に害された事実はなく、裁判所が弁護権を制限したとはいえない。
結論
被告人の弁護権を制限した事実は存せず、憲法37条違反には当たらない。上告棄却。
実務上の射程
控訴審における弁護権保障の限界を示す。控訴趣意書の提出期限を徒過した後の弁護人交代であっても、期限内に有効な趣意書が提出済みであり、公判期日に弁護人が出廷して弁論の機会が確保されている限り、手続の適法性は維持される。実務上、弁護人の交代による期間延長の要否を判断する際の基準となる。
事件番号: 昭和29(あ)1571 / 裁判年月日: 昭和29年9月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強制弁護事件であっても、裁判所が弁護人選任の機会を十分に与えたのに被告人が選任請求を怠った場合、控訴趣意書提出期限後に国選弁護人を選任しても憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:強制弁護事件の控訴審において、原審裁判所は被告人に対し、弁護人選任の通知書および控訴趣意書の提出期限(昭和29…