原裁判所は控訴趣意書提出期間内たる昭和三〇年九月一二日(控訴趣意書提出最終日は同月二六日)弁護士甲を被告人の弁護人に選任し、同弁護人は右最終期日までに趣意書を提出することを引受けたが被告人と談合の結果同月二三日趣意書を提出しないで辞任し、同日原裁判所は弁護士乙を弁護人に選任し同弁護人は右最終期日までに趣意書を提出することを引受けたが一一月一一日趣意書を提出しないで辞任した。そこで原裁判所は同月一五日弁護士丙を弁護人に選任して同月一六日第一回の公判を開廷し同日同弁護人は出頭して被告人提出の控訴趣意書に基き弁論し、同日被告人は同公判廷に出頭して同弁護人と打合のため同月三〇日まで公判期日の続行を求め原裁判所はこれを許可し、同弁護人は同月二八日補充控訴趣意書を提出し更に第二回公判期日に右補充趣意書に基き弁論の上被告人のため証拠申請をしたものであることを認めることができる。されば、原審の手続には原裁判所が被告人の防禦権を侵害した事実を認めることはできない。
控訴審における国選弁護人選任等の手続において被告人の防禦権を侵害した事実なしとされた一事例
刑訴法289条,刑訴法389条
判旨
控訴審において選任された弁護人が交代し、第一回公判期日までに補充控訴趣意書の提出や十分な打合せが困難な状況であっても、裁判所が期日の続行を認め、弁護人が補充趣意書の提出や証拠申請を行った場合には、防御権の侵害とはならない。
問題の所在(論点)
控訴趣意書の提出期限後に弁護人が選任され、直ちに公判が開かれた場合において、被告人の防御権(憲法37条)を侵害したといえるか。
規範
憲法37条が保障する被告人の防御権は、弁護人による実効的な援助を受ける権利を含むが、裁判所が弁護人の選任、交代、及び期日の運営等について、被告人と弁護人の打合せや主張の準備に必要な合理的期間を確保する措置を講じている場合には、その保障に反するものではない。
重要事実
被告人の控訴審において、提出期間内に選任された二名の弁護人が相次いで趣意書を提出せず辞任した。裁判所は期間経過後に新たに弁護人を選任し、その翌日に第一回公判を開いた。同日、弁護人は被告人提出の趣意書に基づき弁論したが、被告人は弁護人との打合せのため期日の続行を求め、裁判所はこれを許可した。その後、弁護人は補充控訴趣意書を提出し、第二回公判でこれに基づく弁論及び証拠申請を行った。
あてはめ
本件では、当初の弁護人らが趣意書を提出せず辞任したという経緯があるが、新たに選任された弁護人は第一回公判に出頭し、被告人自作の趣意書に基づき弁論を行っている。さらに、裁判所は被告人の請求に基づき公判期日の続行を許可し、弁護人に対して被告人との打合せ及び補充控訴趣意書の提出のための期間を実質的に付与している。実際に、弁護人はその期間内に補充趣意書を提出し、次回期日で証拠申請を含む十分な弁護活動を行っている。したがって、一連の手続において被告人の防御に実質的な支障は生じておらず、裁判所が防御権を侵害したとは認められない。
結論
原審の手続に防御権侵害の違法はなく、被告人の上告は棄却される。
実務上の射程
弁護人の交代が繰り返されるなど訴訟が遅延する状況下での裁判所の期日運営の裁量を示す。弁護人に実質的な準備機会(期日の続行や補充書の受理)が与えられている限り、選任直後の開廷も直ちに違憲・違法とはならない。答案上は、効果的な弁護を受ける権利の具体的内容(準備期間の要否)を検討する際の考慮要素として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)2153 / 裁判年月日: 昭和28年4月1日 / 結論: 棄却
一 刑訴規則第一七八条により裁判所のなす弁護人選任の照会手続は、憲法第三七条第三項前段の要請にもとずくものでない。 二 被告人による弁護人選任の請求がその責に帰すべき事由により控訴趣意書の提出期限に近接していて、期間内に控訴趣意書を提出できるような適当な時期になされなかつた場合には、たとえ裁判所が控訴趣意書の提出期限後…
事件番号: 昭和31(あ)3848 / 裁判年月日: 昭和32年6月19日 / 結論: 棄却
控訴審が被告人から貧困を理由に国選弁護人選任の請求があつたのにその選任を遅延し、控訴趣意書差出最終日を経過した後に至り国選弁護人を選任した場合において、改めて同弁護人に対し控訴趣意書を提出する機会を与える措置をとらなかつたとしても、同弁護人において自ら控訴趣意書を提出するため右最終日の変更方その他格別の請求をすることな…