一 刑訴規則第一七八条により裁判所のなす弁護人選任の照会手続は、憲法第三七条第三項前段の要請にもとずくものでない。 二 被告人による弁護人選任の請求がその責に帰すべき事由により控訴趣意書の提出期限に近接していて、期間内に控訴趣意書を提出できるような適当な時期になされなかつた場合には、たとえ裁判所が控訴趣意書の提出期限後に弁護人を選任したとしても、憲法第三七条第三項によつて保障された権利の行使を妨げたものとはいえない。
一 憲法第三七条第三項前段と刑訴規則第一七八条により裁判所のなす弁護人選任の照会手続 二 控訴趣意書の提出期限に近接してなされた弁護人選任の請求と憲法第三七条第三項
憲法37条3項,刑訴法36条,刑訴法272条,刑訴法289条,刑訴規則177条,刑訴規則178条,刑訴規則250条
判旨
裁判所は、必要的弁護事件であっても、被告人がその責に帰すべき事由により、控訴趣意書を提出できる適当な時期に弁護人選任の請求をしなかった場合には、控訴趣意書提出期限の経過後に弁護人を選任したとしても憲法37条3項に違反しない。
問題の所在(論点)
控訴審の必要的弁護事件において、控訴趣意書提出最終日の直前に被告人から国選弁護人の選任請求があった場合、提出期限経過後に弁護人を選任し、提出期間の指定替えを行わずに審理を進めることは、憲法37条3項に違反するか。
規範
憲法37条3項は、被告人が貧困等の事由により弁護人を依頼できない場合に国に対し選任を請求できる権利を保障している。裁判所は、国選弁護人が控訴趣意書を作成提出できる適当な時期に選任請求があったにもかかわらず、故なく選任を遅滞し、弁護人の作成機会を失わせた場合には憲法違反となる。しかし、被告人が適当な時期に選任請求をしなかった場合には、提出期限経過後の選任であっても、被告人の権利行使を妨げたとはいえず、裁判所は提出最終日の指定替えをして改めて提出機会を与える憲法上の義務を負わない。
重要事実
必要的弁護事件の被告人が、控訴趣意書の提出最終日を昭和25年6月24日、公判期日を7月1日とする通知を受けた。被告人は当初自ら作成した趣意書を提出したが、最終日の2日前にあたる6月22日に貧困を理由とする国選弁護人選任の請求を行った。裁判所は最終日経過後の6月29日に弁護人を選任し、選任された弁護人は自ら趣意書を提出することなく、公判期日において被告人提出の趣意書に基づき弁論を行った。
あてはめ
本件被告人が国選弁護人の選任を請求したのは、控訴趣意書提出最終日のわずか2日前であった。この時期は、弁護人が新たに控訴趣意書を起案・提出するために必要な「適当な時期」とはいえない。選任が期限経過後となったのは、期限に近接した時期に請求を行った被告人自身の責に帰すべき事由によるものであり、裁判所に選任遅滞の責任はない。したがって、裁判所が提出最終日の指定替え等を行わなかったとしても、被告人の弁護人依頼権を侵害したものとは認められない。
結論
本件における原審の手続に憲法37条3項違反はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
必要的弁護事件における弁護人選任の憲法上の保障範囲を画した判例である。裁判所の告知義務を否定し、被告人の「適当な時期」における権利行使を前提とする。実務上は、刑事訴訟規則上の照会手続(178条等)の不備が直ちに憲法違反とはならないこと、および被告人の不作為が権利救済の制限に繋がることを示す文脈で使用する。
事件番号: 昭和26(れ)828 / 裁判年月日: 昭和26年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条3項は、被告人からの請求の有無にかかわらず常に弁護人を付すべきことを義務付けたものではない。したがって、被告人からの請求がない場合に弁護人不在のまま審理を行っても、強制弁護事件でない限り憲法違反とはならない。 第1 事案の概要:旧刑事訴訟法下において、強制弁護事件ではない被告事件の審理が…