記録に徴すれば、原審裁判所は公訴趣意書提出最終日より後、第1回公判期日の二四日前に弁護人を選任したものであるが、これより先に被告人から詳細な事実誤認、未決勾留日数の本刑通算要求の主張を記載した公訴趣意書が提出されており、右弁護人は被告人と共に原審第一回公判期日に出席して被告人提出の公訴趣意書中の事実誤認の主張のみについて弁論し、結審されたものであり、被告人及び弁護人からは弁護人選任、弁護人からの公訴趣意書不提出に関し何等異議を述べた形跡がないのであるから、所論違憲の主張は前提を欠くのみならず、原審において弁護権の行使が不当に制限されたものというに足りない。
不法に弁護権を制限したことにならない一事例
刑訴法389条,刑訴法376条
判旨
国選弁護人の選任が控訴趣意書の提出期限後であっても、被告人自ら詳細な趣意書を提出し、弁護人が公判で異議なく弁論を行っているなど弁護権の行使が不当に制限されていない場合には、憲法37条3項に違反しない。
問題の所在(論点)
控訴審において国選弁護人の選任が控訴趣意書の提出期限後となったことが、憲法37条3項が保障する「弁護人の援助を受ける権利」を侵害し、違憲となるか。
規範
被告人の弁護人選任手続が控訴趣意書の提出期限より遅れた場合であっても、被告人本人が事実上の防御活動を行い、かつ選任された弁護人が公判期日に出席して有効な弁論を行うなど、実質的に弁護権の行使が不当に制限されたと認められない限り、憲法37条3項の保障する弁護人依頼権に違反するものではない。
重要事実
被告人は控訴審において弁護人の選任を請求したが、原審裁判所が国選弁護人を選任したのは控訴趣意書提出の最終期限後であり、第一回公判期日の24日前であった。被告人は弁護人選任前に、事実誤認や未決勾留日数の算入を求める詳細な控訴趣意書を自ら提出していた。選任された弁護人は被告人と共に公判に出席し、被告人提出の趣意書に基づき事実誤認の主張について弁論を行った。この際、被告人および弁護人から、選任の遅れや弁護人による趣意書の不提出に関して異議は述べられなかった。
あてはめ
本件では、国選弁護人の選任が期限後であったものの、被告人自身が詳細な控訴趣意書を作成・提出しており、事実上の防御の端緒が確保されていたといえる。また、選任された弁護人は公判期日の24日前には選任されており、公判において被告人の主張を補足する形で事実誤認の弁論を行っている。さらに、手続過程において弁護人選任の遅滞について当事者から異議が述べられていない。これらの事情を総合すれば、選任の遅れによって被告人の弁護権の行使が不当に制限されたとはいえず、実質的な公判維持に欠けるところはないと解される。
結論
原審の弁護人選任手続は、被告人の弁護権を不当に制限したものとは認められず、憲法37条3項に違反しない。
実務上の射程
国選弁護人の選任遅延が直ちに違憲・違法となるわけではなく、被告人本人の防御活動の状況や、選任後の弁護活動の機会が確保されていたかという「実質的な弁護権の保障」の有無によって決せられる。答案上では、被告人による自力での書面提出や、公判での弁護人の態度、異議の有無を具体的事実として拾い、実質的制限の有無を判断する際の指標とする。
事件番号: 昭和26(あ)2340 / 裁判年月日: 昭和27年3月28日 / 結論: 棄却
本件記録によると、被告人は原審裁判所から、昭和二六年一月二六日に控訴趣意書を提出すべき最終日を同年二月二二日と指定した通知を受取り、右期間内に自ら作成した控訴趣意書を提出しており、国選弁護人の選任を裁判所に請求した形跡はないのである。そして原審は本件が必要的弁護事件であるので公判期日の三日前に弁護人を選任し、弁護人は公…