原審は控訴趣意書を差出すべき最終日を昭和二四年八月一九日と指定し、同年七月二二日その通知書を被告人に送達してこれが通知をなしているのである。そして、被告人は国選弁護人選任要否の照会に対し一旦その必要なき旨の回答をしながら控訴趣意書差出最終日に切迫した同年八月一七日に改めてこれが選任を請求したものであつて、原審裁判長は同月二〇日被告人のため弁護士松井久市を弁護人に選任したのである。なるほどこの弁護人選任の通知は同年一一月四日に至りはじめて、同弁護人に対してなされたものであることは所論の通りであるが、この通知の遅延したために同弁護人が自ら控訴趣意書を提出し得なかつたものとはいい得ないのである。それは同弁護人の選任そのものが既に控訴趣意書差出最終日を経過した以後であつたからである。そして、弁護人の選任がかくの如く趣意書差出最終日後になされたことも、被告人が裁判所に対し一旦国選弁護人の選任不要の旨回答しながら、趣意書差出期間終了間際に至つて改めてこれが選任を請求したため、裁判所が遅滞なくその選任をなしたにも拘わらず、避けることのできなかつた結果であることは前説示の手続の経過に徹して明らかである。されば所論の如く原審によつて国選弁護人の制度が無視され弁護人の弁護権に重大な制限が加えられたものとなすことはできない。
必要的弁護事件において裁判所による弁護人の選任が控訴趣意書差出期間経過後であつても違法にならない場合
刑訴法289条,刑訴法404条,刑訴法388条,刑訴規則236条1項
判旨
被告人が一旦不要と回答した国選弁護人の選任を控訴趣意書提出期限直前に請求し、裁判所が遅滞なく選任したものの、選任自体が期限後となった場合には、弁護権の不当な制限には当たらない。
問題の所在(論点)
被告人が提出期限直前に国選弁護人を請求し、選任自体が期限後となった場合に、弁護人が控訴趣意書を提出できなかったことをもって、弁護権を不当に制限した訴訟手続の違法(刑訴法上の不備)といえるか。
規範
被告人の防御権や弁護権の行使が保障されるべきことは当然であるが、国選弁護人の選任手続において、裁判所が遅滞なく必要な措置を講じている限り、被告人自身の不適切な請求時期に起因して弁護人が提出期限内に控訴趣意書を提出できなかったとしても、直ちに訴訟手続の違法(弁護権の不当な制限)とはならない。
重要事実
控訴審において、裁判所は控訴趣意書の提出期限を昭和24年8月19日と指定し、被告人に通知した。被告人は当初、国選弁護人選任を不要と回答していたが、提出期限直前の8月17日になって改めて選任を請求した。裁判長は期限後の8月20日に弁護人を選任し、11月4日に選任通知がなされた。弁護人は、選任通知の遅延等により自ら控訴趣意書を提出できなかったことが弁護権の制限にあたると主張して上告した。
あてはめ
本件では、被告人が一旦不要と回答したにもかかわらず、提出期限のわずか2日前に選任を請求している。裁判所はこれに対し、期限翌日の8月20日に弁護人を選任しており、遅滞なく手続を行っている。選任通知の遅延があったとしても、選任自体が既に提出期限を過ぎた後になされたものであり、通知の遅れが趣意書提出不能の直接的原因ではない。このような結果は、被告人が期限間際に請求を行ったことに起因する「避けることのできなかった結果」であると評価される。したがって、国選弁護制度の無視や弁護権の重大な制限があったとは認められない。
結論
本件における控訴趣意書提出手続に違法はなく、弁護権の制限を理由とする上告は理由がない。
実務上の射程
被告人側の権利濫用的または不適切な時期の請求によって生じた不利益は、裁判所が遅滞なく対応している限り、訴訟手続の違法とはならないことを示している。答案上は、国選弁護人の選任遅滞が問題となる事案において、被告人側の帰責性や裁判所の対応の迅速性を検討する際の判断材料として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)5240 / 裁判年月日: 昭和30年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の提出期限に極めて近接して国選弁護人の選任請求がなされた場合、裁判所が期限後に弁護人を選任しても憲法37条3項に反しない。本判決は、選任時期が不適切であっても、被告人の権利行使が実質的に妨げられなければ違憲とはならない旨を判示した。 第1 事案の概要:被告人は昭和28年6月11日に弁護人…
事件番号: 昭和25(あ)1047 / 裁判年月日: 昭和27年11月14日 / 結論: その他
国選弁護人選任の請求に対し、控訴審において控訴趣意書最終提出日五日前にこれを選任しても、同弁護人が控訴趣意書を提出し異議なく弁論した場合は、弁護権を制限したことにならない。