燃料の油質検査、積込数量の確認は法令に根拠のある船長の職務行為そのものではないが、これらの行為は法令で当該船舶の最高責任者として機関長その他の海員を指揮監督し、航海の安全について一切の責任を持つとされている船長としては、その職務に附随し、実際の慣行により事実上公務員の職務として行うべき当然の行為であつて、賄賂と関連性をもつ職務に密接な行為である。
船長の職務に密接な行為にあたるとされた事例。
刑法197条1項,船員法7条,船員法8条,船員法9条,船員法10条,船舶安全法18条
判旨
公務員が行う行為が、法令上の根拠に基づく直接的な職務そのものではない場合であっても、職務に附随し、かつ実際の慣行により事実上公務員の職務として行うべき行為であれば、賄賂罪における「職務」に含まれる。
問題の所在(論点)
法令に直接の根拠がない燃料の油質検査や積込数量の確認といった行為が、刑法上の収賄罪における「職務」に含まれるか。
規範
刑法における収賄罪の「職務」とは、公務員の権限に属する事務そのものだけでなく、これに密接に関連する事務も含まれる。具体的には、法令に直接の根拠がない行為であっても、当該公務員の地位や職責に鑑み、その職務に附随し、かつ実際の慣行によって事実上公務員がその職務として行うべきものと認められる行為であれば、職務密接関連行為として「職務」に当たると解すべきである。
重要事実
被告人Eは船長として勤務していた際、燃料の油質検査および積込数量の確認を行った。これらの行為自体は、法令に直接的な根拠がある船長の固有の職務行為ではなかった。しかし、船長は法令上、船舶の最高責任者として機関長その他の海員を指揮監督し、航海の安全について一切の責任を持つ立場にあった。被告人は、当該確認行為に関して便宜を図る趣旨で供与された利益を受領したとして、収賄罪に問われた。
あてはめ
船長は、船舶の最高責任者として海員を指揮監督し、航海の安全を確保する包括的な責務を法令上負っている。本件で行われた燃料の油質検査や数量確認は、航海の安全確保に直結する。したがって、これらの行為は、船長の本来の職務に附随し、実際の慣行により事実上公務員の職務として行うべき当然の行為であるといえる。ゆえに、これらの行為は本件賄賂と関連性を持つ職務に密接な行為と評価される。
結論
本件の油質検査等の行為は、船長の職務に密接に関連する行為であり、収賄罪における「職務」に該当する。
実務上の射程
本判決は、職務権限の範囲を柔軟に解釈し、「職務に附随する行為」や「慣行による事実上の事務」も収賄罪の客体となり得ることを示した。答案上は、職務密接関連性を論じる際のリーディングケースとして活用でき、法令上の権限の有無だけでなく、公務員の地位・職責と当該行為の慣行性を検討する際の手がかりとなる。
事件番号: 昭和28(あ)4388 / 裁判年月日: 昭和29年5月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賄賂罪(刑法197条等)における「職務」とは、公務員の一般的職務権限に属する事務を指し、具体的・個別的な事務の配分を受けていることまでは必要とされない。 第1 事案の概要:被告人が行った行為が、その地位に基づく職務に関連するものであるかどうかが争われた事案。判決文には具体的な職業や行為態様の詳細は…