一 賄賂が何人の犠牲又は出捐においてなされるかは何等賄賂罪の成立に消長を及ぼすものではない 二 商工事務官(三級)として昭和二二年六月一九日省中一般達「商工省分課規程」によりソーダ灰、苛性ソーダ及び塩素製品に関する事、無機薬品に関する事項等を管掌するものと定められている。商工省化学局化政課勤務を命ぜられた者は法令上苛性ソーダ等の配合割当、含アルミナ苛性ソーダ溶液の出荷依頼書の発行の事務を処理すべき一般的権限を有するもので、たまたま同課内部の事務分担において、右配給割当の事務を相当せず又は一時的に右依頼書発行の事務を担当していたとしても、これらの事務について、金員の供与又は饗応を受けたときは収賄罪を構成する。
一 賄賂が何人の犠牲又は出捐においてなされたかは同罪の成立に影響するか 二 商工省分課規定により一般的権限を有する商工事務官が同課内事務分担ににより現実に担当していない事務に関して金員を収受々した場合と収賄罪の成否
刑法197条,刑法197条1項
判旨
公務員の「職務」とは、法令上の一般的職務権限に属する事務を指し、内部的な事務分担で現実に担当していない事項や臨時的な事項であっても、一般的権限内であればこれに含まれる。また、当該職務行為自体が正当か不正か、あるいは法律上の強制力を欠く行政措置に基づくものか否かは、収賄罪の成否に影響しない。
問題の所在(論点)
1. 内部的な事務分担において現実に担当していない、あるいは臨時的に担当しているに過ぎない事務が、刑法上の「職務」に該当するか。 2. 職務行為が法的強制力を欠く行政措置に基づく場合や、内容が不当・違法である場合であっても、収賄罪は成立するか。
規範
刑法197条1項の「職務」とは、公務員がその地位に伴い法令上処理すべきものとされている一般的職務権限に属する事務をいう。内部的な事務分担(便宜上の事務分配)により現実に担当していない事項であっても、一般的職務権限の範囲内であれば職務に含まれる。また、当該行為が正当であるか不正(違法)であるかを問わず、一般的職務権限内の事項に関する対価として賄賂を収受すれば収賄罪が成立する。
重要事実
商工事務官として商工省化学局化政課に勤務していた被告人Eは、同課の所掌事項である「無機薬品に関する事項」等につき法令上の一般的職務権限を有していた。内部の事務分担表では、苛性ソーダ等の割当事務は別の職員Aの担当とされ、Eは出荷依頼書の発行事務を臨時的に補助していたに過ぎなかった。Eはこれらの事務に関し、贈賄側から金員や饗応を受けたとして収賄罪で起訴された。弁護側は、現実に担当していない事務や、法的根拠を欠く事実上の行政措置に基づく事務は「職務」に当たらないと主張した。
あてはめ
被告人Eが勤務する化政課の所掌事務には、法令(商工省分課規程等)上、本件の割当事務や出荷依頼書発行事務が含まれており、Eは商工事務官としてこれらを処理し得る一般的職務権限を有していた。内部の事務分担一覧表は便宜上の標準に過ぎず、法令上の職務権限を制限するものではない。したがって、現実に担当していたか否かにかかわらず、これらの事務はEの「職務」に属する。また、出荷依頼書の発行が法的強制力のない行政措置であったとしても、あるいは仮に内容が違法であったとしても、一般的職務権限内の行為である以上、その報酬として賄賂を受け取れば職務の純潔性を害し、収賄罪を構成する。
結論
被告人の行為は、一般的職務権限に属する事務に関するものとして、収賄罪を構成する。現実に担当していないことや、行為の法的根拠の欠如は罪の成否を左右しない。
実務上の射程
「職務関連性」の解釈におけるリーディングケース。答案では「一般的職務権限」をキーワードに、内部的な事実上の事務分担に拘束されない広範な職務性を論じる際に引用する。また、職務行為の適法性・正当性が罪の成否に影響しない点(職務の純潔性保護)を確認する文脈でも有用である。
事件番号: 昭和28(あ)126 / 裁判年月日: 昭和30年2月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員による金員の収受が賄賂罪における「職務に関し」たものといえるか否かは、当該公務員の一般的職務権限に属するか否かにより判断される。 第1 事案の概要:被告人は公務員の身分を有しており、第三者から金員を収受した。この金員の授受が、被告人の担当する事務の範囲内、すなわち職務に関連して行われたものか…