県衛生部予防課長事務代理として精神病予防に関する事務を担当する事務吏員が、厚生大臣から法令上の根拠なくして県知事に委託された国の行政事務である精神病床整備費の国庫補助金に関する進達事務を、本来の職務に関連して、慣習上若しくは事実上分掌するときは、その事務の執行は、贈収賄罪における本来の職務と密接な関係のある行為或は準職務行為と解すべきである。
法令上の根拠なくして県知事に委託された国の行政事務が贈収賄罪における本来の職務と密接な関係のある行為にあたるとされた事例。
刑法197条1項前段,刑法198条1項
判旨
収賄罪の職務に関連して、公務員が本来の職務そのものには属さないが、慣習上もしくは事実上所管する事務(準職務行為)について賄賂を受領した場合であっても、同罪が成立する。
問題の所在(論点)
本来の職務権限に属しない事務が、贈収賄罪(刑法197条以下)における「職務」に該当するか。特に、法令上の根拠なく通牒によって事実上処理されていた事務の職務性が問題となる。
規範
刑法197条1項の「職務」には、公務員の法令上の権限に属する事務そのものだけでなく、これに密接な関係のある行為、あるいは公務員が慣習上若しくは事実上所管している事務(準職務行為)も含まれる。
重要事実
被告人Bは、神奈川県衛生部予防課長事務代理の職にあった。精神病床整備費の国庫補助に関する事務は、本来は国の行政事務であり、法令上都道府県知事や県職員に委任する根拠はなかった。しかし、昭和25年以降、厚生省の通牒により便宜上各都道府県知事に委託され、被告人Bがその事務を分掌していた。被告人はこの事務に関連して利益を得たため、収賄罪に問われた。
あてはめ
本件の事務は、被告人の本来の職務である精神予防に関する事務と密接に関連している。また、長年にわたり厚生省の通牒に基づき都道府県知事に委託され、被告人が実際にその事務を分掌していた実態がある。したがって、当該事務は被告人が「慣習上若しくは事実上所管する職務行為」にあたると評価できる。
結論
被告人Bの行為は、職務執行と密接な関係のある行為または準職務行為にあたり、収賄罪が成立する。
実務上の射程
公務員の職務権限を形式的な法令上の根拠に限定せず、実態に即して広く捉える「職務密接関連性」の法理を示す。答案上では、職務権限の有無が微妙な事案において、過去の運用実態や本来の職務との関連性を指摘する際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和30(あ)762 / 裁判年月日: 昭和32年2月26日 / 結論: 棄却
刑法第一九七条にいう公務員の職務に関しというのは、公務員が法令上管掌する職務のみならず、その職務に密接な関係を有するいわば準職務行為または事実上所管する職務行為に関する場合も含む。
事件番号: 昭和38(あ)2448 / 裁判年月日: 昭和39年6月25日 / 結論: 棄却
燃料の油質検査、積込数量の確認は法令に根拠のある船長の職務行為そのものではないが、これらの行為は法令で当該船舶の最高責任者として機関長その他の海員を指揮監督し、航海の安全について一切の責任を持つとされている船長としては、その職務に附随し、実際の慣行により事実上公務員の職務として行うべき当然の行為であつて、賄賂と関連性を…