本件公訴事実は同一被害者に対し、一定期間反覆継続して行われた単一意思の発現と認めらるる同種の詐欺行為を包括して、一個の詐欺罪とし、八名の被害者につき各個の訴因毎に、被害者、詐欺の行われた日時(始期と終期)、場所及び被害物件の総計その価格の総額等を明示しているのであるから、詐欺罪の訴因の特定について欠くることなく、右一罪の内容をなす個々の行為につき、更に、日時場所等によりこれを特定する要なき旨の原審の判断は、違法とは認められない。
各個の包括一罪をなす詐欺罪の訴因特定方法。
刑法246条1項,刑法45条,刑訴法256条
判旨
一定期間反復継続して行われた包括一罪としての詐欺罪において、被害者、日時(始期と終期)、場所、被害物件の総計及び価格の総額が明示されていれば、個々の行為を特定せずとも訴因は特定されている。刑事訴訟法256条3項の訴因の特定は、一罪の内容をなす個々の行為の詳細までを要求するものではない。
問題の所在(論点)
同一被害者に対し反復継続して行われた詐欺行為を包括一罪として起訴する場合、その構成要素となる個々の行為について日時や場所を特定しなければ、刑事訴訟法256条3項の訴因の特定を欠くことになるか。
規範
包括一罪として起訴される事案において、訴因の特定(刑事訴訟法256条3項)が認められるためには、対象となる一罪の内容として、被害者、犯罪が行われた期間(始期と終期)、場所、及び被害総額等が明示されていれば足りる。その一罪を構成する個々の具体的な犯行の一つひとつについて、日時や場所等を個別に詳細に特定する必要はない。
重要事実
被告人らは、8名の被害者に対し、一定期間反復継続して同種の詐欺行為を行った。検察官は、各被害者ごとに、詐欺が行われた期間(始期と終期)、場所、被害物件の総計、およびその総額を明示した訴因により、包括して一個の詐欺罪として公訴を提起した。これに対し弁護人は、個々の詐欺行為の日時・場所等が具体的に特定されていないため、訴因の特定に欠ける旨を主張して上告した。
あてはめ
本件公訴事実は、単一の意思の発現と認められる同種の詐欺行為を包括して一個の詐欺罪としている。訴因において、8名の被害者ごとに、詐欺の始期と終期、場所、被害物件の総計および総額が明示されている。このような記載があれば、被告人の防禦の範囲を画定するために必要な事項は網羅されているといえる。したがって、右一罪の内容をなす個々の行為について、さらに日時・場所等を細分化して特定する必要はないと解される。
結論
本件訴因は適法に特定されており、個々の行為の特定を欠くとの主張は理由がない。
実務上の射程
本判決は、包括一罪における訴因の特定が「一罪」という単位を基準に判断されることを示したものである。司法試験においては、常習犯や営業犯などの包括一罪、あるいは集合犯の訴因特定の問題において、本判決の枠組み(期間・場所・総量による特定)を引用し、被告人の防禦権行使に支障がないかを論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和37(あ)2626 / 裁判年月日: 昭和38年4月16日 / 結論: 棄却
原判決が是認した第一審判決の事実摘示は、本件二一回の詐欺の各犯罪事実につき、犯行の年月日、犯行の場所、被害者、被欺罔者、詐取した商品、その価格を、各犯罪行為毎に具体的に一覧表として記載しており、欺罔の方法は単純でありかつ同一方法であるので、これを一括して理由の本文中に記載しているのであるから、右本文と一覧表と相まつて、…