一 公判調書における文字の挿入削除が刑訴規則第五九条所定の方式を欠いていても、ただちにその挿入削除を無効とすべきではなく、その効力の有無は、裁判所が諸般の状況に照して合理的な裁量により決すべきものである。 二 「被告人はA税務事務所に勤務中、B日頃、かねて同税務事務所滞納整理係Cから徴収方依頼を受けていた納税者D会社より、固定資産税一六四、七三〇円を同会社振出の同額の小切手で徴収し保管中、その頃擅に着服横領した。」との横領の訴因に対し、「被告人はA税務事務所に勤務中、B日頃、D会社において、その制限なきにかかわらず権限あるをよそおい、Eに対し同会社の固定資産税一六四、七三〇円の請求をし、同人をしてその旨誤信せしめ、よつて同人から同会社振出の同額の小切手の交付を受けて、これを騙取した。」との詐欺の予備的訴因を追加することにより、公訴事実の同一性は害されない。 三 主たる訴因と予備的訴因のある場合に、予備的訴因につき有罪を認定したときは、主文において主たる訴因につき無罪を言い渡すべきでないことは勿論、理由中においても、かならずしもこれに対する判断を明示することを要するものではない。
一 公判調書における文字の挿入削除が刑訴規則第五九条所定の方式を欠く場合の効力 二 予備的訴因の追加により公訴事実の同一性が害されない事例 三 予備的訴因につき有罪を認定した場合に主たる訴因に対する判断を明示することの要否
刑訴規則59条,刑訴法256条3項,刑訴法256条5項,刑訴法312条1項,刑訴法44条1項,刑訴法336条,刑訴法378条3号,刑法252条1項,形法246条1項
判旨
主たる訴因と予備的訴因が設定されている場合において、予備的訴因につき有罪を認定したときは、主文で主たる訴因に無罪を言い渡す必要はなく、理由中で判断を明示することも要しない。
問題の所在(論点)
主たる訴因と予備的訴因が示されている場合において、予備的訴因に基づき有罪を認定する際、裁判所は主たる訴因について主文または理由中で判断を示す必要があるか。主たる訴因と予備的訴因の審判の順序および判決の形式が問題となる。
規範
主たる訴因と予備的訴因が併立する場合、裁判所が予備的訴因を成立させると判断したときは、主たる訴因についての判断を主文に示す必要はない。また、判決の理由中においても、必ずしも主たる訴因に対する判断を明示することを要しない。
重要事実
被告人に対し、横領の訴因をもって公訴が提起されたが、その後、詐欺の予備的訴因が追加された。原審は、予備的訴因である詐欺罪の成立を認め、有罪を宣告したが、主たる訴因である横領罪については主文および理由中において特段の判断を示さなかった。これに対し、弁護人が判断遺脱等の法令違反を主張して上告した。
あてはめ
予備的訴因は、主たる訴因が認められないことを条件として審判を求めるものである。裁判所が予備的訴因を有罪と認定したということは、論理的に主たる訴因が排斥されたことを含意している。したがって、主文において主たる訴因につき無罪を言い渡すべきでないことはもちろん、理由中においてもその旨の判断を明示しなかったとしても、判決の正当性は失われない。本件では、横領(主)に対し詐欺(予備)が追加されており、詐欺を認定した以上、横領の成否について言及がなくても違法とはいえない。
結論
予備的訴因に基づき有罪を認定する場合、主たる訴因について主文および理由中で判断を明示する必要はない。
実務上の射程
予備的訴因の審判構造(順位)に関する基本的判例である。答案上は、訴因変更や数個の訴因の処理において、裁判所の審判義務の範囲や判決の形式を論じる際に活用できる。また、公訴事実の同一性が認められる範囲(本件では横領と詐欺)での訴因追加の適法性についても傍論的に触れられている。
事件番号: 昭和25(あ)1089 / 裁判年月日: 昭和27年3月5日 / 結論: 棄却
一 公訴犯罪事実について、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項は、起訴状に記載することは許されないのであつて、かかる事項を起訴状に記載したときは、これによつてすでに生じた違法性は、その性質上もはや治癒することができないものと解するを相当とする。 二 本件起訴状によれば、詐欺罪の公訴事実について、その冒頭に、「被告人…
事件番号: 昭和26(あ)4626 / 裁判年月日: 昭和28年5月29日 / 結論: 棄却
一 「被告人は甲日、某信用組合において、事務員Aが誤つて他人に支払うべき払戻金三万五千円を被告人に提供せんとするや右誤信に乗じてこれを受け取り騙取した」との詐欺の事実(主たる訴因)と「被告人は甲日某信用組合事務員の過失により他人に支払うべき払戻金三万五千円を受領し帰宅後、事務員Bより財布の内容を尋ねられるや、領得の意思…