判旨
横領罪の公訴事実と、予備的に追加された詐欺罪の訴因事実は、その基礎的事実を同じくするものとして、公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)が認められる。
問題の所在(論点)
横領罪と、予備的に追加された詐欺罪との間に、公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)が認められるか。
規範
公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)は、訴因変更が認められる限界を画する概念である。判例は、両訴因の「基礎的事実が共通」であるか否か、すなわち事実に実質的な重なりがあるか否かを基準に判断する。
重要事実
被告人は当初、横領罪の公訴事実で起訴された。その後、差戻後の第一審において、検察官により詐欺罪の訴因が予備的に追加された。第一審裁判所は、横領罪の成立を否定する一方で、詐欺罪の成立を認めて有罪判決を下した。これに対し、被告人側が訴因変更の適法性を争って上告したものである。
あてはめ
本件における横領の公訴事実と、予備的に追加された詐欺の訴因事実を比較すると、両者はその基礎的事実を同じくするものと認められる。具体的には、金員授受のプロセスや対象となる金員の同一性など、事案の核心となる基礎的部分において共通性が認められるため、両訴因は同一の歴史的公判事実の範囲内にあるといえる。
結論
横領罪と詐欺罪の訴因は基礎的事実を同じくするため、公訴事実の同一性が認められる。したがって、当該訴因変更は適法である。
実務上の射程
横領と詐欺のように、被害者の意思に反して占有を移転させるか否かという構成要件上の差異があっても、同一の財物を巡る一連の事実関係であれば、公訴事実の同一性が肯定されやすいことを示している。訴因変更の可否を論じる際、非両立な関係にある罪名間の変更を基礎付ける重要な先例となる。
事件番号: 昭和26(あ)4626 / 裁判年月日: 昭和28年5月29日 / 結論: 棄却
一 「被告人は甲日、某信用組合において、事務員Aが誤つて他人に支払うべき払戻金三万五千円を被告人に提供せんとするや右誤信に乗じてこれを受け取り騙取した」との詐欺の事実(主たる訴因)と「被告人は甲日某信用組合事務員の過失により他人に支払うべき払戻金三万五千円を受領し帰宅後、事務員Bより財布の内容を尋ねられるや、領得の意思…
事件番号: 昭和24(れ)3145 / 裁判年月日: 昭和25年4月14日 / 結論: 棄却
しかし本件公判請求書記載の公訴事實は被告人等が共謀の上Aからサツカリン一一本を強取したという強盜の事實である原判決認定の事實は被告人等が共謀してAからサツカリン一一本を騙取した詐欺の事實であるから何れも奪取罪であつて基本となる事實は同一である。從つて原判決の認定した事實は公訴事實と同一性を有し唯その法律判斷を異にするに…