判旨
公訴事実の同一性の有無は、基本的事実関係が同一であるか否かによって判断される。横領罪と詐欺罪の各公訴事実について、基本的事実関係が異なり同一性が認められない場合には、二重処罰の禁止や一事不再理効の抵触は生じない。
問題の所在(論点)
確定判決を経た横領被告事件の公訴事実と、新たに起訴された詐欺被告事件の公訴事実との間に、公訴事実の同一性が認められるか。
規範
公訴事実の同一性(刑事訴訟法256条3項、312条1項)は、両罪の基本的事実関係が同一であるか否かによって決せられる。
重要事実
被告人は、昭和24年に横領罪で起訴され、昭和27年に無罪判決が確定していた。その後、本件において詐欺罪で新たに起訴されたが、被告人側は本件詐欺の公訴事実が、既に確定判決を経た横領の公訴事実と同一であると主張し、一事不再理効等に反すると争った。
あてはめ
前訴の横領被告事件と本件の詐欺被告事件の各公訴事実を対照すると、両者はその基本的事実関係を異にしている。したがって、両者の間に事実の同一性を認めることはできないと解される。
結論
本件詐欺罪の公訴事実は前訴の横領罪と同一ではないため、二重処罰や判例違反の主張には理由がなく、上告を棄却する。
実務上の射程
公訴事実の同一性の判断基準として「基本的事実関係」の成否を重視する姿勢を示したもの。答案上、一事不再理効の範囲や訴因変更の可否を論じる際、単なる罪名の違いではなく、背後にある事実関係が共通しているかを検討する際の出発点となる。
事件番号: 昭和26(あ)4626 / 裁判年月日: 昭和28年5月29日 / 結論: 棄却
一 「被告人は甲日、某信用組合において、事務員Aが誤つて他人に支払うべき払戻金三万五千円を被告人に提供せんとするや右誤信に乗じてこれを受け取り騙取した」との詐欺の事実(主たる訴因)と「被告人は甲日某信用組合事務員の過失により他人に支払うべき払戻金三万五千円を受領し帰宅後、事務員Bより財布の内容を尋ねられるや、領得の意思…