判旨
起訴事実と判決認定事実の基本的事実関係が同一である場合には、訴因変更の手続を経ることなく別個の事実を認定しても、審判の範囲を逸脱した違法があるとはいえない。
問題の所在(論点)
裁判所が訴因変更手続を経ずに起訴事実と異なる事実を認定することが、刑事訴訟法378条3号後段の「訴えのない事件についてした」判決として違法となるか。その判断基準として「事実の同一性」をいかに解すべきか。
規範
裁判所が起訴事実と異なる事実を認定する場合において、起訴事実と認定事実との間で「基本的事実関係が同一」であるときは、審判の範囲の逸脱(刑事訴訟法378条3号後段)には当たらない。
重要事実
被告人が起訴された事実に対し、第一審判決は起訴事実とは異なる事実を認定した。弁護人は、この認定が訴因の範囲を外れており、不意打ちを与えるものであるとして、刑事訴訟法378条3号後段(判決が訴えのあった事件についてしなかったとき、又は訴えのない事件についてしたとき)に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件における起訴事実の内容と、第一審判決が認定した事実の内容を対比すると、両者の間にはその基礎となる社会的事実において共通性がある。判決文によれば、これら両事実の基本的事実関係は同一であることが明白であると判断される。したがって、別個の事実を認定したとしても、それは起訴された事件の範囲内における認定の差異にすぎず、審判の対象を逸脱したものとはいえない。
結論
本件の起訴事実と認定事実は基本的事実関係において同一であるため、第一審判決に刑事訴訟法378条3号後段違反の違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する初期の判例であり、「基本的事実関係の同一性」という基準を示している。司法試験においては、現在の通説的見解である「審判対象の画定に必要な事実(識別機能)」や「被告人の防御の重要性(防御機能)」の観点から論じる際の、事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)を判断するための基礎的視座として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)2704 / 裁判年月日: 昭和29年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が起訴状記載の訴因と実質的に異ならない犯罪事実を認定する場合、訴因変更の手続きを経ずとも、被告人の防御権を不当に制限しない限り違法ではない。 第1 事案の概要:被告人らが虚偽の運賃請求を真実の運賃請求のように装って金銭を騙取したという詐欺事件において、第一審判決が認定した事実と起訴状記載の訴…
事件番号: 昭和26(あ)4626 / 裁判年月日: 昭和28年5月29日 / 結論: 棄却
一 「被告人は甲日、某信用組合において、事務員Aが誤つて他人に支払うべき払戻金三万五千円を被告人に提供せんとするや右誤信に乗じてこれを受け取り騙取した」との詐欺の事実(主たる訴因)と「被告人は甲日某信用組合事務員の過失により他人に支払うべき払戻金三万五千円を受領し帰宅後、事務員Bより財布の内容を尋ねられるや、領得の意思…