判旨
裁判所が起訴状記載の訴因と実質的に異ならない犯罪事実を認定する場合、訴因変更の手続きを経ずとも、被告人の防御権を不当に制限しない限り違法ではない。
問題の所在(論点)
訴因として記載された犯罪事実と、裁判所が認定した事実に差異がある場合、訴因変更の手続きを経ずに判決を下すことが許されるか。特に、被告人の防御権侵害の有無が判断基準となるか。 (刑事訴訟法312条1項)
規範
裁判所が認定した犯罪事実が、起訴状記載の訴因と犯罪の同一性の範囲内にあり、かつ、審理の経過に照らして被告人の防御権の行使を不当に制限するものでない場合には、訴因変更の手続き(刑事訴訟法312条1項)を経ることなく当該事実を認定できる。
重要事実
被告人らが虚偽の運賃請求を真実の運賃請求のように装って金銭を騙取したという詐欺事件において、第一審判決が認定した事実と起訴状記載の訴因との間に、詐取の態様等について一定の差異が生じた。弁護側は、この認定が訴因変更なしになされたことは防御権を侵害し憲法37条2項等に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、第一審が認定した事実は、被告人らが虚偽の運賃請求を真実の如く装って騙取したという点において、起訴状記載の訴因と犯罪事実の核心部分で異なるところがない。また、本件審理の全経過に照らしてみても、認定された事実と訴因との差異によって、被告人が予期せぬ不利益を被ったり、防御の機会を奪われたりした事実は認められない。したがって、訴因変更の手続きを経ない認定であっても、被告人の防御権を不当に制限したものとはいえない。
結論
本件の事実認定は訴因の範囲内であり、防御権の侵害も認められないため、訴因変更の手続きを経ずになされた判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する初期の重要判例である。事実認定と訴因との間に食い違いがある場合、(1)事実の同一性と、(2)被告人の具体的防御権への影響(不意打ちの有無)を基準に判断するという実務上の枠組みを示している。答案上は、訴因変更が必要な「重要な事実」の該当性を論じる際の準拠枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)774 / 裁判年月日: 昭和31年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、審理の経過に鑑み、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずるおそれがないと認めるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因変更手続を経ずに訴因と異なる事実を認定することができる。 第1 事案の概要:被告人は詐欺の公訴事実で起訴されたが、第一審において弁護人が第1回公判で「本件は横領と…
事件番号: 昭和28(あ)3664 / 裁判年月日: 昭和29年4月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由として主張された憲法違反や判例違反が、実質的に単なる訴訟法違反や量刑不当の主張にすぎない場合には、刑訴法405条の上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が、第一審判決における訴訟法違反を原判決(控訴審)が職権調査せず看過した点について、憲法違反および判例違反であると主張して上告…