判旨
裁判所は、認定した事実が公訴事実の範囲内に属し、かつ、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがない場合には、訴因変更の手続を経ることなく訴因と異なる事実を認定することができる。
問題の所在(論点)
裁判所が、訴因変更手続を経ることなく、起訴状に記載された贈賄の主体の資格関係とは異なる事実を認定することが許されるか。具体的には、訴因と認定事実の不一致が「被告人の防御に実質的な不利益」を与えるか否かが問題となる。
規範
裁判所が訴因変更手続(刑訴法312条1項)を経ずに訴因と異なる事実を認定できるのは、①認定事実が公訴事実の範囲内に属し、かつ、②被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがない場合に限られる。
重要事実
被告人が贈賄罪で起訴された事案において、検察官の構成した起訴事実と第一審判決が認定した事実との間に、贈賄の主体の資格関係(具体的詳細は判決文からは不明)について差異が生じた。しかし、それ以外の基礎となる事実、訴因、および適用される罰条については、起訴事実と認定事実との間に差異は認められなかった。
あてはめ
本件では、贈賄の主体の資格関係にのみ差異があるものの、事案の基礎となる事実の同一性は保たれており、訴因および罰条にも変更はない。このような資格関係の細部の差異は、公訴事実の範囲内にとどまるものであり、かつ、被告人がこれによって予期せぬ不意打ちを受けたり、防御の機会を奪われたりするような実質的な不利益を被るおそれはないといえる。
結論
被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがない以上、訴因変更手続を経ることなく起訴事実と異なる主体の資格関係を認定した原審の判断は正当であり、刑訴法312条1項に違反しない。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する「防御権喪失説」を確立した重要な裁判例である。答案上では、事実の不一致が「重要な事項」であるかを確認した上で、仮に重要であっても、被告人の防御に実質的な不利益が生じていないことを論証する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和36(あ)1799 / 裁判年月日: 昭和38年10月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決文の表現に多少の不正確さがあっても、判決文全体から公訴事実と同一の範囲内の事実を認定していることが明らかな場合には、訴因変更の手続きを経る必要はない。 第1 事案の概要:被告人Dは、登記申請書の受理という職務行為に関して賄賂5,000円を収受したとして起訴された。公訴事実は収受日を「登記申請書…
事件番号: 昭和27(あ)2704 / 裁判年月日: 昭和29年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が起訴状記載の訴因と実質的に異ならない犯罪事実を認定する場合、訴因変更の手続きを経ずとも、被告人の防御権を不当に制限しない限り違法ではない。 第1 事案の概要:被告人らが虚偽の運賃請求を真実の運賃請求のように装って金銭を騙取したという詐欺事件において、第一審判決が認定した事実と起訴状記載の訴…