仮りに本件公訴事実が請託収賄でありとしても、事実審が審理の上単純収賄と認めるときは、公訴事実の同一性を害せずかつ被告人の防禦に実質的な不利益を生ぜしめない以上、訴因変更の手続を要せずその有罪を認定することができると解するを相当とする。
請託収賄の公訴事実を単純収賄と認定することと訴因変更の要否
刑法197条1項,刑訴法312条
判旨
請託収賄罪として公訴が提起された場合であっても、公訴事実の同一性を害さず、かつ被告人の防御に実質的な不利益を生じさせない限り、訴因変更の手続を経ずに単純収賄罪で有罪と認定することができる。
問題の所在(論点)
請託収賄罪として公訴提起された事実に対し、訴因変更手続を経ずに単純収賄罪として有罪認定を行うことが、訴因変更を必要とする訴訟法上の規定に違反しないか(刑事訴訟法312条1項の訴因変更の要否)。
規範
訴因変更(刑事訴訟法312条1項)の要否は、審判対象の画定という観点から、原則として訴因に含まれる具体的態様と異なる事実を認定する際に必要となる。しかし、認定事実が公訴事実と同一性の範囲内(刑訴法312条1項)にあり、かつ、被告人の防御に実質的な不利益を生じさせない場合には、訴因変更の手続を経ることなく、訴因と異なる事実を認定することが許容される。
重要事実
被告人が請託収賄罪の事実で起訴されたが、事実審における審理の結果、裁判所は請託の事実は認められないものの、単純収賄罪の事実は認められると判断した。この際、検察官による訴因変更の手続を経ることなく、直ちに単純収賄罪での有罪認定が可能かどうかが争点となった。
あてはめ
本件において、請託収賄から単純収賄への変更は、収賄という基本的犯罪事実に共通性があり、公訴事実の同一性を害しない。また、請託の有無は収賄罪の構成要件の加減に関する要素であり、より重い請託収賄の訴因で防御を尽くしている被告人にとって、請託がないものとして認定されることは、一般に防御に実質的な不利益を生じさせるものとはいえない(審理の経過に照らし特段の事情がない限り)。したがって、訴因変更手続は不要であると解される。
結論
公訴事実の同一性を害さず、被告人の防御に実質的な不利益を生じさせない以上、訴因変更なしに単純収賄罪の有罪を認定できる。
実務上の射程
本判決は、縮小認定(重い訴因に含まれる軽い事実の認定)における訴因変更の要否を示した典型例である。司法試験においては、訴因変更の要否の一般的枠組み(識別説+不意打ち防止)を論じた上で、本件のような縮小認定のケースでは特に「防御の実質的不利益」の有無を検討する際の有力な論拠として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)2809 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、認定した事実が公訴事実の範囲内に属し、かつ、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがない場合には、訴因変更の手続を経ることなく訴因と異なる事実を認定することができる。 第1 事案の概要:被告人が贈賄罪で起訴された事案において、検察官の構成した起訴事実と第一審判決が認定した事実との間に…
事件番号: 昭和32(あ)612 / 裁判年月日: 昭和35年3月18日 / 結論: 棄却
一 印紙犯罪処罰法制定後その施行中に政府が新に発行した取引高税印紙は印紙犯罪処罰法にいう印紙にあたる。 二 地方法務局登記課商業法人登記係長で、登記官吏として主に商業法人登記に関する事務を担当し、補助的には法人関係の不動産登記に関する事務をも職務としていた者が、商業法人の土地建物の価格設定、家屋台帳訂正申告、所有権移転…