判旨
判決文の表現に多少の不正確さがあっても、判決文全体から公訴事実と同一の範囲内の事実を認定していることが明らかな場合には、訴因変更の手続きを経る必要はない。
問題の所在(論点)
判決における事実認定が公訴事実(訴因)の記載と細部で異なる場合において、訴因変更の手続きを経ずに判決を下すことが許されるか。
規範
公訴事実と認定事実との間に相違がある場合であっても、判決文全体の趣旨からみて、認定された事実が公訴事実と同一の範囲(時・所等)に属することが明白であれば、訴因変更(刑事訴訟法312条1項)の手続きを要さず、直ちに当該事実を認定することができる。
重要事実
被告人Dは、登記申請書の受理という職務行為に関して賄賂5,000円を収受したとして起訴された。公訴事実は収受日を「登記申請書を受理した昭和27年2月27日頃」としていたが、原判決の判示の一部には、収受日が受理日より以前であるかのような不正確な記載があった。弁護人は、これが公訴事実と異なる事実を訴因変更なしに認定したものであり、違法であると主張して上告した。
あてはめ
原判決の罪となるべき事実の判示には、確かに収受日が受理日以前であるかのような、正確性を欠く表現が含まれている。しかし、原判決の全文を総合的に検討すれば、裁判所が認定した賄賂収受の日は、公訴事実が提示した「登記申請書受理の日頃」と同一であると解される。したがって、訴因変更が必要となるような別事実の認定には当たらない。
結論
本件では公訴事実と同一の事実が認定されていると認められるため、訴因変更の手続きを経なかったことに違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
実務上、訴因変更の要否は「被告人の防御に実質的な不利益を与えるか」で判断されるが、本判決は、判文上の些細な表現の不備があっても、全体として訴因の範囲内であれば直ちに違法とはならないことを示している。答案上は、訴因変更の要否が問題となる場面で、認定事実が訴因の枠内にあるか否かを判決全体の趣旨から判断する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和34(あ)1970 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】訴因と認定事実の間に基本的事実関係の同一性があり、かつ被告人の防御に実質的な不利益を及ぼさない場合には、訴因変更の手続きを経ずに事実を認定しても適法である。 第1 事案の概要:被告人Cは収賄罪に問われた事案において、第一審以来、判示のストーブを受け取った時期および趣旨について争っていた。原判決は、…
事件番号: 昭和27(あ)2704 / 裁判年月日: 昭和29年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が起訴状記載の訴因と実質的に異ならない犯罪事実を認定する場合、訴因変更の手続きを経ずとも、被告人の防御権を不当に制限しない限り違法ではない。 第1 事案の概要:被告人らが虚偽の運賃請求を真実の運賃請求のように装って金銭を騙取したという詐欺事件において、第一審判決が認定した事実と起訴状記載の訴…
事件番号: 昭和36(あ)1881 / 裁判年月日: 昭和38年7月12日 / 結論: 棄却
被告人が販売した不正な収入印紙および取引高税印紙を貼付使用の登記申請書を審査校合し右不正印紙類を黙認の上登記手続を完了して貰つたことの報酬として金員を供与した旨の訴因に対し、被告人が販売した不正な収入印紙および取引高税印紙を貼付使用の登記申請書を受理し、該印紙類の正不正を審査確認するに当り、厳重な審査をなすことなく、右…