被告人は東京調達局管理部不動産評価課土地係員として民公有接収地に対する賃貸借料算定等の職務に従事していたものであるが、入間川基地住宅用接収地地主組合の副組合長より右接収地借上料が高額に値上げされたことの謝礼の趣旨で供与されるものである情を知りながら金五万円の供与を受け、もつてその職務に関し収賄した旨の訴因に対し、被告人は東京特別調達局管財部不動産評価課に勤務し、接収地借上料並びに土地買収価格の各評価算定等の事務に従事していたものであるが、右副組合長から前示接収地借上料値上問題の情報提供等をしたことの謝礼の趣旨で供与されるものであることを知りながら金五万円の供与を受け、もつてその職務に関し収賄した旨の事実を認定するには、訴因変更の手続を必要としない。
収賄罪について訴因の変更を必要としない一事例
刑訴法312条,刑法197条
判旨
訴因変更の手続を要するのは被告人の防御の利益を保護するためであり、公訴事実および訴因の同一性を害しない範囲の事実については、原則として訴因変更手続を経ることなく認定できる。
問題の所在(論点)
起訴状に記載された公訴事実と認定事実に差異がある場合、裁判所が訴因変更手続を経ることなく当該事実を認定することは、刑事訴訟法の規定に違反し許されないか。訴因変更の要否の判断基準が問題となる。
規範
刑事訴訟法が訴因変更の手続を設けた趣旨は、あらかじめ審理の対象・範囲を明確にすることで、被告人の防御に不利益を与えないことにある。したがって、公訴事実および訴因が同一性を有する限り、これらの同一性を害しない事実については、訴因変更の手続を要することなく裁判所は事実を認定できる。
重要事実
被告人が公訴を提起された際、起訴状に記載された公訴事実と、第一審判決が認定した事実との間に差異が生じていた。弁護人は、この事実の差異は訴因変更の手続(刑事訴訟法312条1項)を経るべきものであると主張して、上告した。
あてはめ
本件における起訴状記載の公訴事実と第一審判決の認定事実との差異は、公訴事実の同一性はもとより、訴因の同一性をも害するものではないといえる。このような軽微な差異について、審理の過程で疑問が生じるたびに逐一訴因変更手続を命じることは、訴訟経済上無用であるばかりか、裁判所が予断を抱いているとの疑念を当事者に抱かせるおそれもある。よって、被告人の防御に実質的な不利益を与えるものではないといえる。
結論
訴因の同一性を害しない範囲の事実認定については、訴因変更の手続を要しない。したがって、原判決が訴因変更手続を経ずに審判したことは正当である。
実務上の射程
訴因変更の要否について「防御の不利益」という実質的基準を示唆した初期の判例である。後の判例(白鳥事件等)により、訴因の不可欠要素の変更や、具体的な防御の不利益の有無を検討する枠組みへと具体化されており、本判決はその基礎となる「訴因変更制度の趣旨」を論証する際に引用される。
事件番号: 昭和28(あ)2809 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、認定した事実が公訴事実の範囲内に属し、かつ、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがない場合には、訴因変更の手続を経ることなく訴因と異なる事実を認定することができる。 第1 事案の概要:被告人が贈賄罪で起訴された事案において、検察官の構成した起訴事実と第一審判決が認定した事実との間に…
事件番号: 昭和32(あ)612 / 裁判年月日: 昭和35年3月18日 / 結論: 棄却
一 印紙犯罪処罰法制定後その施行中に政府が新に発行した取引高税印紙は印紙犯罪処罰法にいう印紙にあたる。 二 地方法務局登記課商業法人登記係長で、登記官吏として主に商業法人登記に関する事務を担当し、補助的には法人関係の不動産登記に関する事務をも職務としていた者が、商業法人の土地建物の価格設定、家屋台帳訂正申告、所有権移転…