一 印紙犯罪処罰法制定後その施行中に政府が新に発行した取引高税印紙は印紙犯罪処罰法にいう印紙にあたる。 二 地方法務局登記課商業法人登記係長で、登記官吏として主に商業法人登記に関する事務を担当し、補助的には法人関係の不動産登記に関する事務をも職務としていた者が、商業法人の土地建物の価格設定、家屋台帳訂正申告、所有権移転登記申請等に関し便宜な取計を受けたい趣旨の下に供与されるものであることの情を知りながら金員の供与を受けたときは、収賄罪が成立する。
一 取引高税印紙は印紙犯罪処罰法にいう印紙か 二 収賄罪の成立する事例
印紙犯罪処罰法2条,取引高税法11条,刑法197条,不動産登記法11ノ2,非訴事件手続法139ノ2
判旨
起訴状記載の印紙交付の公訴事実に対し、訴因変更手続を経ずに印紙使用の事実を認定しても、両者の間に公訴事実の同一性が認められ、被告人の防御に実質的な不利益を生じさせない限り適法である。
問題の所在(論点)
印紙の「交付」という訴因に対し、訴因変更手続を経ずに印紙の「使用」を認定することが、刑事訴訟法312条1項に違反しないか、および被告人の防御にとって実質的な不利益があるか。
規範
訴因変更の手続(刑事訴訟法312条1項)を要するか否かは、原則として、審判対象の画定に不可欠な事実が変化したか、あるいは被告人の防御に実質的な不利益を及ぼすかによって判断される。公訴事実の同一性の範囲内であり、かつ、被告人の防御に実質的な不利益を来さない場合には、訴因変更を経ずに別事実を認定しても違法ではない。
重要事実
被告人Bは、印紙犯罪処罰法2条1項前段の「印紙交付」の罪で起訴された。しかし、第一審および原審は、訴因変更の手続を経ることなく、同規定の「印紙使用」の事実を認定した。被告人側は、訴因変更なしに交付から使用へと認定を変更したことは、公訴事実の同一性を欠き、かつ防御の観点から違法であると主張して上告した。
事件番号: 昭和36(あ)1881 / 裁判年月日: 昭和38年7月12日 / 結論: 棄却
被告人が販売した不正な収入印紙および取引高税印紙を貼付使用の登記申請書を審査校合し右不正印紙類を黙認の上登記手続を完了して貰つたことの報酬として金員を供与した旨の訴因に対し、被告人が販売した不正な収入印紙および取引高税印紙を貼付使用の登記申請書を受理し、該印紙類の正不正を審査確認するに当り、厳重な審査をなすことなく、右…
あてはめ
本件における印紙の「交付」と「使用」の事実は、その態様に差異はあるものの、印紙犯罪処罰法違反という同一の罰条に触れる一連の行為として公訴事実の同一性を認めることができる。また、記録に照らせば、訴因変更の手続を経ずに事実認定を「交付」から「使用」へ切り替えたとしても、被告人の防御に実質的な不利益を来したとみるべき事情は存在しない。したがって、訴因変更なしの認定変更は許容される。
結論
公訴事実の同一性が認められ、かつ被告人の防御に実質的な不利益を生じさせないため、訴因変更手続を経ない事実認定は適法である。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する「防御不利益説」を補強する判例として、構成要件の異なる行為態様への変更であっても、同一性の範囲内で不利益がなければ変更不要とする実務的指針を示すものである。
事件番号: 昭和31(あ)310 / 裁判年月日: 昭和33年3月25日 / 結論: 棄却
仮りに本件公訴事実が請託収賄でありとしても、事実審が審理の上単純収賄と認めるときは、公訴事実の同一性を害せずかつ被告人の防禦に実質的な不利益を生ぜしめない以上、訴因変更の手続を要せずその有罪を認定することができると解するを相当とする。
事件番号: 昭和31(あ)3605 / 裁判年月日: 昭和35年4月19日 / 結論: 棄却
一 収賄罪における賄賂収受の場所の差異につき、起訴状の記載に「東京都北区ab丁目c番地被告人自宅」とあるのを第一審判決で「東京都北区de丁目b、f番地の当時の被告人自宅」と認定するには、訴因変更の手続を要しない。 二 控訴趣意書自体に控訴理由を明示しないで、第一審に提出した弁論要旨と題する書面の記載を援用する旨の控訴趣…