一 収賄罪における賄賂収受の場所の差異につき、起訴状の記載に「東京都北区ab丁目c番地被告人自宅」とあるのを第一審判決で「東京都北区de丁目b、f番地の当時の被告人自宅」と認定するには、訴因変更の手続を要しない。 二 控訴趣意書自体に控訴理由を明示しないで、第一審に提出した弁論要旨と題する書面の記載を援用する旨の控訴趣意は許されない。 三 収賄罪において、税務署法人税課第六係係員として法人税の課税標準の調査等に関する事務を分掌するとともに、事実上同係次席として係長の職務を補佐していた者につき、その賄賂の対象となつた行為が、同係の管轄区域内ではあるが同人の担当地域外であつたというだけで、直ちにその職務権限に属しないものとはいえない。
一 訴因変更手続を要しない事例。―起訴状記載の事実と一審判決認定事実の間における場所の差異― 二 第一審に提出した弁論要旨と題する書面を援用する旨の控訴趣意書の適否 三 収賄罪における税務署法人税課係員の担当地域と職務権限
刑訴法312条,刑訴法376条,刑法197条,刑訴規則240条
判旨
被告人に不当な不意打ちを与え、その防御権の行使に不利益を及ぼすおそれがない限り、犯罪の場所等の事実が訴因と異なっても、訴因変更の手続を要しない。
問題の所在(論点)
訴因に記載された犯罪の場所等の事実と異なる事実を認定する際、いかなる場合に訴因変更の手続を要するか。
規範
訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)の要否は、審判対象の画定という観点に加え、被告人の防御権行使への配慮から判断すべきである。したがって、訴因と異なる事実を認定する場合であっても、被告人に不当な不意打ちを与え、その防御権の行使に不利益を及ぼすおそれがない限り、訴因変更手続を経る必要はない。
重要事実
被告人Bらの刑事事件において、原判決が認定した犯罪の場所等の事実が、検察官の提示した訴因(公訴事実)の記載と一部異なっていた。弁護人は、このような事実認定を行うには刑事訴訟法312条1項に基づく訴因変更の手続を経る必要があり、これを行わなかった原審の判断は憲法37条1項(防御権)等に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、犯罪の場所に関する事実の相違は、事案の性質や審理の経過に照らせば、被告人に不当な不意打ちを加え、その防御権の行使に具体的な不利益を与える性質のものとは認められない。したがって、裁判所が訴因変更手続を経ることなく、訴因と一部異なる場所的事実を認定したとしても、適法な手続に反するものとはいえない。
結論
被告人に不当な不意打ちを与え防御権を侵害するおそれがない以上、犯罪場所の認定について訴因変更手続を要しないとした原判断は正当である。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する「防御権譲歩限度説」を示した重要判例である。司法試験においては、訴因の特定の程度(256条3項)と峻別し、訴因変更が必要となる場面(312条1項)において、事実の相違が「重要な事項」か否かを検討する際の決定的なメルクマールとして「被告人の防御に対する不利益」を論じる際に用いる。
事件番号: 昭和29(あ)2127 / 裁判年月日: 昭和31年6月5日 / 結論: 棄却
刑法二四六条一項詐欺の訴因を同条二項詐欺の認定に変更する場合のごときは、訴因変更手続を要しないものと解するのが相当であり、被告人の防禦を困難ならしめる虞もないのが通常である。
事件番号: 昭和28(あ)4639 / 裁判年月日: 昭和29年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が定める「公平な裁判所」とは、裁判官が被告人と個人的な利害関係を持つ等の不偏不党性を欠く状態にない組織を指し、当事者が主観的に不公平と感じるか否かによって決まるものではない。 第1 事案の概要:被告人が、原判決の量刑が不当であることを理由として、憲法37条1項の保障する「公平な裁判所…
事件番号: 昭和27(あ)2704 / 裁判年月日: 昭和29年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が起訴状記載の訴因と実質的に異ならない犯罪事実を認定する場合、訴因変更の手続きを経ずとも、被告人の防御権を不当に制限しない限り違法ではない。 第1 事案の概要:被告人らが虚偽の運賃請求を真実の運賃請求のように装って金銭を騙取したという詐欺事件において、第一審判決が認定した事実と起訴状記載の訴…
事件番号: 昭和34(あ)397 / 裁判年月日: 昭和35年9月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決書の証拠説明において明白な誤謬がある場合であっても、本来の趣旨に従って文意を読解すべきであり、その読解に基づいて判決の正当性を判断すべきである。 第1 事案の概要:被告人A、B、C、Dの各弁護人が量刑不当、判例違反、法令違反、事実誤認を理由に上告を申し立てた。特に被告人Bの弁護人は、原判決の理…