本件は、被告人が偽造公文書を行使したとの訴因を、被告人が他人と共謀の上右と同一の公文書を偽造したとの訴因に変更した場合であり被告人自ら同一の公文書に対する公信力を害したとの点において、両者その基本的事実を同一にし、しかも刑法一五八条も、偽造公文書行使の罪を犯した者は、公文書偽造の罪を犯した者と同一の刑に処する旨規定して居るのであつて、起訴状において訴因とされた偽造公文書行使の事実と変更の許可を得て新らしい訴因となつた同一公文書偽造の事実とは、刑事訴訟法上、同一事実関係と解すべきである。されば第一審が所論の如く訴因変更を許可し、原審がこれを適法と判断したことに所論の違法がない。
訴因変更を許した事例。―「被告人は偽造公文書を行使した」との訴因と「被告人は他人と共謀の上右と同一の公文書を偽造した」との訴因。
刑訴法312条,刑法155条,刑法158条,刑法60条
判旨
同一の公文書について、被告人がこれを行使したという訴因を、他人と共謀の上で当該文書を偽造したという訴因に変更することは、公信力を害したという基本的事実において共通し、公訴事実の同一性の範囲内にある。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法312条1項にいう「公訴事実の同一性」が認められる範囲。特に、同一の客体に関する「行使」から「偽造」への訴因変更が、事実の同一性を失わせるか否か。
規範
公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)は、訴因の基本的事実関係が同一であるか否かによって判断される。具体的には、対象となる客体が同一であり、かつ当該客体に対する侵害の態様や社会的評価が共通している場合には、両事実は同一の範囲内にあると解すべきである。
重要事実
被告人は当初、偽造公文書行使の事実(訴因A)で起訴された。しかし、第一審の公判手続進行中、検察官は訴因Aを、被告人が他人と共謀の上で当該同一の公文書を偽造した事実(訴因B)に変更する旨の申請を行った。第一審はこの変更を許可し、被告人に対し公文書偽造の罪で有罪を言い渡し、原審もこれを維持した。これに対し弁護人は、訴因変更が不当であり判例に違反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和31(あ)3605 / 裁判年月日: 昭和35年4月19日 / 結論: 棄却
一 収賄罪における賄賂収受の場所の差異につき、起訴状の記載に「東京都北区ab丁目c番地被告人自宅」とあるのを第一審判決で「東京都北区de丁目b、f番地の当時の被告人自宅」と認定するには、訴因変更の手続を要しない。 二 控訴趣意書自体に控訴理由を明示しないで、第一審に提出した弁論要旨と題する書面の記載を援用する旨の控訴趣…
あてはめ
本件において、訴因変更前の「偽造公文書行使」と変更後の「公文書偽造」は、いずれも全く同一の公文書を対象としている。両者は、被告人が自ら当該公文書に対する公信力を害したという点において、その基本的事実を同一にするものである。また、刑法158条が偽造公文書行使の罪を公文書偽造の罪と同一の刑に処すると規定していることも、両事実の質的な近接性を裏付けている。したがって、本件の変更申請は「公訴事実の同一性」の範囲内における変更として適法である。
結論
偽造公文書行使から同一公文書の偽造への訴因変更は、公訴事実の同一性を失わないため、これを許可した原審の判断は正当である。
実務上の射程
同一客体(公文書、有価証券等)に関する偽造・変造と行使の間での訴因変更の可否を論じる際の直接の根拠となる。答案上は、両訴因が「同一の公信力を侵害する一連の過程」にあることを指摘し、基本的事実関係の共通性を論証する材料として用いる。
事件番号: 昭和31(あ)153 / 裁判年月日: 昭和31年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】虚偽公文書作成罪(刑法156条)の客体である「公務員がその職務に関し作成すべき文書」とは、公務員が職務権限に基づき作成する文書全般を指し、その内容や形式は限定されない。 第1 事案の概要:被告人が関与した特定の文書(本件文書)について、これが刑法156条に規定される「公務員の職務に関する文書」に該…
事件番号: 昭和31(あ)17 / 裁判年月日: 昭和31年7月5日 / 結論: 棄却
A法務社岸和田支局またはB地方法務新聞宇治山田支局各名義の各船舶登記証書を作成した場合においても、A法務社岸和田支局なる印の「社」およびB地方法務新聞宇治山田支局之印なる印の「新聞」という各文字の処を殊更に不鮮明に押捺し、各その形式外観によつて、一般人をしてA法務局岸和田支局またはB地方法務局宇治山田支局が権限により作…