刑法二四六条一項詐欺の訴因を同条二項詐欺の認定に変更する場合のごときは、訴因変更手続を要しないものと解するのが相当であり、被告人の防禦を困難ならしめる虞もないのが通常である。
一項詐欺の訴因を二項詐欺に認定する場合の訴因変更手続の要否。
刑法246条,刑訴法312条
判旨
刑法246条1項の詐欺罪の訴因から同条2項の詐欺罪に認定を変更する場合、被告人の防御に実質的な不利益が生じない限り、訴因変更手続を要しない。
問題の所在(論点)
刑法246条1項(交付罪)の訴因を、同一の事実関係に基づく同条2項(利得罪)の事実として認定する場合に、訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)が必要となるか。
規範
訴因変更手続の要否については、原則として審判対象の画定に不可欠な事実の相違がある場合に必要となるが、被告人の防御に実質的な不利益を及ぼすおそれがない場合には、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる認定をすることが可能である。1項詐欺から2項詐欺への変更についても、通常は被告人の防御を困難にするおそれはないものと解される。
重要事実
被告人は、自身の既存の無尽債務を肩代わりさせるため、新たに無尽契約を締結。当該新契約に基づく給付金をもって旧債務を弁済した形式をとった。当初の訴因は、欺罔により給付金を受領したとする1項詐欺であったが、原審は被告人側の主張を容認する形で、給付金と既存債務を対等額で相殺して財産上の利益を得たとする2項詐欺の事実を認定した。
あてはめ
本件では、1項詐欺の構成要件である給付金の受領と、2項詐欺の構成要件である債務相殺による利益享受は、事実関係において大きな差がない。また、原審による認定は被告人及び弁護人が控訴審で自ら主張した事実を容認した結果であり、被告人の防御に何ら支障を及ぼすものではない。したがって、不意打ち等による実質的な不利益は認められない。
結論
1項詐欺から2項詐欺への変更は、被告人の防御に支障がない限り訴因変更手続を要しない。本件の認定変更は適法である。
実務上の射程
1項詐欺と2項詐欺の区別は相対的である場合が多く、本判決は両者の認定変更について「防御に支障がない」とする類型的な判断を示したものといえる。答案上は、訴因変更の一般論(識別説・争点設定説)を述べた上で、本件のように被告人自らが主張していた事実を認定する場合には不利益がないとする論法で使用できる。
事件番号: 昭和31(あ)3605 / 裁判年月日: 昭和35年4月19日 / 結論: 棄却
一 収賄罪における賄賂収受の場所の差異につき、起訴状の記載に「東京都北区ab丁目c番地被告人自宅」とあるのを第一審判決で「東京都北区de丁目b、f番地の当時の被告人自宅」と認定するには、訴因変更の手続を要しない。 二 控訴趣意書自体に控訴理由を明示しないで、第一審に提出した弁論要旨と題する書面の記載を援用する旨の控訴趣…