単独犯の起訴を共同正犯と認定する場合でも、それによつて被告人に不当な不意打を加え、その防禦権の行使に不利益を与えるおそれがないかぎり、訴因変更の手続を必要としないものと解するのが相当である。
単独犯の起訴を共同正犯と認定する場合と訴因変更手続の要否
刑訴法312条,刑訴規則209条
判旨
単独犯として起訴された事案を共同正犯として認定する場合、被告人に不当な不意打ちを与え防御権を侵害するおそれがない限り、訴因変更手続を要しない。
問題の所在(論点)
単独犯として起訴された事実について、訴因変更手続を経ることなく共同正犯として認定することが、刑事訴訟法312条1項に抵触するか。また、それが被告人の防御権行使を不当に制約し、憲法31条(適正手続)に違反しないか。
規範
訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)の要否は、審判対象の画定および被告人の防御権行使の保障という訴因の機能に照らして判断すべきである。単独犯の訴因に対し共同正犯を認定する場合であっても、それによって被告人に不当な不意打ちを加え、その防御権の行使に不利益を与えるおそれがないときには、訴因変更手続を経る必要はない。
重要事実
被告人は、詐欺の単独犯として起訴された。しかし、第一審裁判所は、訴因変更の手続を経ることなく、被告人の所為を詐欺の共同正犯として認定し、有罪を言い渡した。被告人は、単独犯として起訴されたものを共同正犯と認定するには訴因変更手続が必要であるとして、判例違反および憲法31条違反を理由に上告した。
あてはめ
本件のように、単独犯として起訴された犯罪事実を共同正犯として認定したとしても、直ちに被告人の防御の範囲を逸脱するものとはいえない。共同正犯の成立は、単独犯として訴追された事実関係の範囲内に包含されるものと解される。したがって、このような認定は被告人に不当な不意打ちを与え、その防御権の行使に不利益を及ぼすおそれはないものと認められる。
結論
単独犯から共同正犯への認定変更は、被告人の防御権を不当に侵害しない限り、訴因変更手続を要しない。したがって、訴因変更なしに共同正犯を認定した原審の判断に法令違反はなく、憲法31条にも違反しない。
実務上の射程
訴因と認定事実が異なる場合の「訴因変更の要否」に関する初期の重要判例である。実務・答案上は、本判決を前提としつつ、現在の通説的見解である「識別機能説(および防御権考慮)」に基づき、(1)審判対象の画定に不可欠な事実か、(2)被告人の防御にとって重要な事項か、という二段階の枠組みで論じる際の「不意打ち」判断の具体例として引用できる。
事件番号: 昭和28(あ)4367 / 裁判年月日: 昭和30年10月4日 / 結論: 棄却
被告人が昭和二七年一〇月中旬頃およびその翌日頃の二回に古鉄商A方において、同人に偽造の砲金棒を示してこれが純正な砲金棒であるように装い同人をそのとおり誤信させ砲金棒合計二七本の買受方を承諾させて現金合計二十七万三千五百円を騙取した旨の訴因に対し、被告人が右各日時頃二回に前同所古鉄商B(A方の女)方において前同様の方法で…
事件番号: 昭和29(あ)2127 / 裁判年月日: 昭和31年6月5日 / 結論: 棄却
刑法二四六条一項詐欺の訴因を同条二項詐欺の認定に変更する場合のごときは、訴因変更手続を要しないものと解するのが相当であり、被告人の防禦を困難ならしめる虞もないのが通常である。
事件番号: 昭和27(あ)2704 / 裁判年月日: 昭和29年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が起訴状記載の訴因と実質的に異ならない犯罪事実を認定する場合、訴因変更の手続きを経ずとも、被告人の防御権を不当に制限しない限り違法ではない。 第1 事案の概要:被告人らが虚偽の運賃請求を真実の運賃請求のように装って金銭を騙取したという詐欺事件において、第一審判決が認定した事実と起訴状記載の訴…