被告人が昭和二七年一〇月中旬頃およびその翌日頃の二回に古鉄商A方において、同人に偽造の砲金棒を示してこれが純正な砲金棒であるように装い同人をそのとおり誤信させ砲金棒合計二七本の買受方を承諾させて現金合計二十七万三千五百円を騙取した旨の訴因に対し、被告人が右各日時頃二回に前同所古鉄商B(A方の女)方において前同様の方法で同人を欺罔し砲金棒合計二七本の買受方を承諾させて現金合計二十七万三千五百円を騙取した旨の事実を認定するには、訴因変更の手続を経ることを要しない。
詐欺罪について訴因の変更を必要としない一事例
刑法246条1項,刑訴法256条,刑訴法312条
判旨
起訴状記載の被害者と認定された被害者が異なる場合であっても、他の犯罪事実が同一で被告人の防御権行使に実質的な不利益を及ぼさないときは、訴因変更手続を経ずに事実を認定できる。
問題の所在(論点)
訴因上の被害者と認定事実上の被害者が異なる場合に、刑事訴訟法312条1項の訴因変更手続を経ずに当該事実を認定することが許されるか。特に、被害者の氏名の相違が被告人の防御権行使に及ぼす影響が問題となる。
規範
裁判所は、訴因と認定事実との間に相違がある場合でも、その相違が審判の対象の画定に重大な影響を及ぼさず、かつ、被告人の防御権の行使に実質的な不利益を及ぼすおそれがないと認められるときは、訴因変更手続を経ることなく認定を行うことができる。
重要事実
被告人らは詐欺罪で起訴された。起訴状(訴因)には被欺罔者および被害者が「父A」と記載されていたが、第一審判決は、証拠に基づき被欺罔者および被害者を「娘B」と認定した。一方で、犯罪の日時、場所、欺罔方法、交付物品の品質・数量、騙取金額といった他の構成要件的事実は、訴因と認定事実との間で完全に一致していた。
あてはめ
本件では、被害者が父から娘へ変更されているものの、詐欺の実行行為に関する具体的な態様(日時、場所、方法、対象物、金額)はすべて同一である。被害は一個であり、被告人らの行為も一つしかない関係にある。このような状況下では、被害者の表示が多少異なっていたとしても、被告人がどの事実について防御すべきかは明確であり、訴因変更手続を経ない認定が被告人の防御権行使に不利益を及ぼしたとは認められない。
結論
被害者の表示に相違があっても、被告人の防御に実質的な不利益がない限り、訴因変更手続は不要である。本件認定は適法である。
実務上の射程
被害者の特定は訴因の個別化に資するが、他の事実によって十分個別化されており、防御の対象が明確であれば、氏名の誤りは直ちに訴因変更を要する重大な相違とはならない。答案では「防御権不利益説」の具体例として、事実の同一性と防御の重複性を指摘する際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和27(あ)2233 / 裁判年月日: 昭和28年11月10日 / 結論: 棄却
単独犯の起訴を共同正犯と認定する場合でも、それによつて被告人に不当な不意打を加え、その防禦権の行使に不利益を与えるおそれがないかぎり、訴因変更の手続を必要としないものと解するのが相当である。