被告人が販売した不正な収入印紙および取引高税印紙を貼付使用の登記申請書を審査校合し右不正印紙類を黙認の上登記手続を完了して貰つたことの報酬として金員を供与した旨の訴因に対し、被告人が販売した不正な収入印紙および取引高税印紙を貼付使用の登記申請書を受理し、該印紙類の正不正を審査確認するに当り、厳重な審査をなすことなく、右印紙類に消印除去の痕跡が明瞭に認められない限り、これを正当なものとして寛大且つ有利な取扱をして貰つたことに対する報酬として金員を供与した旨認定するには、訴因変更の手続を要しない。
贈賄罪の事実認定につき訴因変更の手続を要しないとされた事例。
刑法198条,刑法197条ノ3,刑訴法312条,刑訴法256条3項,印紙犯罪処罰法2条1項前段
判旨
公務員に対する贈賄の動機や態様について、訴因では「不正な印紙を黙認させた報酬」とされていたところ、判決で「厳重な審査をせず寛大かつ有利な取扱いを受けた報酬」と認定する場合、訴因変更の手続を要しない。
問題の所在(論点)
贈賄罪における贈賄の趣旨(公務員の職務行為の態様)について、当初の訴因が「不正行為の黙認」であったのに対し、認定事実が「審査の軽減・有利な取扱い」であった場合、刑訴法312条1項の訴因変更手続が必要となるか。
規範
裁判所が訴因変更手続を経ることなく、訴因と異なる事実を認定できるか否かは、被告人の防御の範囲を逸脱し、不意打ちを与えるか否かによって決せられる。具体的には、認定事実が訴因に包含される範囲内であり、かつ、被告人の防御にとって実質的な不利益が生じない場合には、訴因変更手続を要しないと解すべきである。
重要事実
被告人が公務員に対し、不正な収入印紙等が貼付された登記申請書に関して金員を供与した贈賄罪の事案。当初の訴因では、公務員が不正印紙を「黙認」して登記を完了したことへの報酬とされていた。これに対し、裁判所は、消印除去の痕跡が明瞭でない限り「厳重な審査をせず寛大かつ有利な取扱い」をしたことに対する報酬であると認定した。
事件番号: 昭和32(あ)612 / 裁判年月日: 昭和35年3月18日 / 結論: 棄却
一 印紙犯罪処罰法制定後その施行中に政府が新に発行した取引高税印紙は印紙犯罪処罰法にいう印紙にあたる。 二 地方法務局登記課商業法人登記係長で、登記官吏として主に商業法人登記に関する事務を担当し、補助的には法人関係の不動産登記に関する事務をも職務としていた者が、商業法人の土地建物の価格設定、家屋台帳訂正申告、所有権移転…
あてはめ
当初の訴因である「不正印紙の黙認」と、認定された「厳重な審査をせず寛大かつ有利な取扱い」は、いずれも不正印紙の受理・審査という一連の職務行為に関する報酬という点で共通している。後者は前者の態様をより限定的、あるいは段階的に緩やかに認定したに過ぎず、被告人の防御の観点から見て、不意打ちを与えるほどの重要な差異とはいえない。したがって、認定事実は訴因の範囲内に含まれると評価される。
結論
本件のように、贈賄の趣旨について細部の態様に差異があるに過ぎない場合には、訴因変更の手続を要しない。
実務上の射程
本判決は、贈賄罪における職務行為の特定について、被告人の防御に実質的な不利益がない限り、訴因変更なしに一部異なる事実認定を認める実務上の指針となる。もっとも、現在では「防御に必要な限度での特定」が重視されるため、単なる態様の差異を超えて構成要件的評価が大きく変わる場合には、慎重な検討が必要である。
事件番号: 昭和36(あ)1799 / 裁判年月日: 昭和38年10月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決文の表現に多少の不正確さがあっても、判決文全体から公訴事実と同一の範囲内の事実を認定していることが明らかな場合には、訴因変更の手続きを経る必要はない。 第1 事案の概要:被告人Dは、登記申請書の受理という職務行為に関して賄賂5,000円を収受したとして起訴された。公訴事実は収受日を「登記申請書…