収賄の共同正犯の訴因に対し、贈賄の共同正犯の事実を認定するには、訴因罰条の変更手続を経ることを要する。
収賄の共同正犯の訴因に対し贈賄の共同正犯の事実を認定する場合と訴因罰条の変更手続の要否。
刑法197条1項,刑法198条1項,刑法312条
判旨
収賄の共犯として起訴された事実に対し、訴因変更手続を経ずに贈賄の事実を認定することは、行為の態様が相反し、被告人の防御に実質的不利益を与えるおそれがあるため、違法である。
問題の所在(論点)
収賄の共犯という訴因に対し、訴因変更手続を経ずに贈賄罪を認定することが、訴訟手続上の違法(刑事訴訟法312条1項、411条1号)に該当するか。特に、収賄と贈賄という対向関係にある罪の間での認定変更の可否が問題となる。
規範
基本的事実関係において同一性が認められる場合であっても、構成要件が異なり、かつ行為の態様が全く相反する関係にある罪の間で認定を変更する際には、被告人に不当な不意打ちを与え、その防御に実質的な不利益を与えるおそれがある。したがって、かかる場合には刑事訴訟法312条1項の訴因変更手続を経ることを要する。
重要事実
被告人は、町長と共謀して建築工事の請負契約締結に対する謝礼として現金合計60万円を収受したという収賄罪(刑法197条1項)の共犯として起訴された。しかし、原審は、訴因変更手続を経ることなく、被告人が会社側と共謀して町長に現金を交付したという贈賄罪(刑法198条)の事実を認定し、有罪を言い渡した。
あてはめ
本件の当初の訴因は、町長側の「収受」行為への加功であったが、原判決が認定した事実は会社側の「供与」行為への加功である。これらは基本的事実関係において同一であるといえるものの、収賄と贈賄は構成要件が異なるだけでなく、行為態様が正反対の犯罪である。このような重大な態様の変更を、手続を経ずに行うことは、被告人の防御準備を根底から覆す不当な不意打ちとなり、防御に実質的な不利益を与えるおそれがあるといえる。
結論
収賄の訴因から訴因変更手続を経ずに贈賄の事実を認定した原判決の手続は違法であり、破棄を免れない。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する「防御不利益説」を具体化した判例。単に罪名が異なるだけでなく、授受の向き(行為の方向性)が逆転するような事案では、実質的不利益が認められやすく、訴因変更手続が必須となることを示している。
事件番号: 昭和29(あ)2409 / 裁判年月日: 昭和30年3月17日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和36(あ)1881 / 裁判年月日: 昭和38年7月12日 / 結論: 棄却
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