一 室内装飾工事の請負人が特別調達局施行の工事につき同局勤務の総理府事務官に対し、一定の職務行為の依頼でなしに、単にその工事の監督促進につき何かと世話になつた謝礼および将来好意ある取扱を受けたい趣旨で金員を供与するのは、刑法第一九八条第一九七条第一項後段にいう請託を贈賄したことにはならない。 二 右の場合これを刑法第一九八条第一九七条第一項に問擬しても、その違反は刑訴第四一一条第一号に該当しない。
一 刑法第一九七条第一項後段の請託の意義 二 右に関する法令適用の誤は、贈賄者について刑訴第四一一条第一号に該当するか
刑法198条,刑法197条1項,刑訴法411条1号
判旨
刑法197条1項後段の「請託を受け」とは、将来一定の職務行為をすることの依頼を受けることを意味するが、贈賄側については請託の有無によって刑が加重されないため、受託収賄罪の成立要件である請託の事実に誤認があっても、贈賄罪の成立に影響を及ぼさない限り、刑訴法411条の職権破棄事由には当たらない。
問題の所在(論点)
贈賄罪の成否を判断するにあたり、前提となる公務員側の「請託を受け」た事実の認定に誤りがある場合、贈賄被告人に対する刑訴法411条に基づく判決の職権破棄が必要となるか。
規範
刑法197条1項後段にいう「請託を受け」とは、将来一定の職務行為をすることの依頼を受けることを意味する。もっとも、収賄者側において請託があれば刑が加重されるのに対し、贈賄者側(刑法198条)については請託関係の有無によって刑が加重される構造にはなっていない。したがって、収賄側の請託認定に誤りがあったとしても、それが贈賄罪の成否や量刑に直ちに影響を及ぼすものではない。
重要事実
被告人Aは、贈賄側の立場として起訴された。原判決は、公務員が請託を受けて賄賂を収受したという受託収賄罪の成立を前提として、被告人Aに贈賄罪の成立を認めていた。しかし、被告人側は、事実審の判示事実および証拠の中に、将来の職務行為を依頼したことを示す「請託」の事実が認められないため、刑法197条1項後段(受託収賄罪)を前提とした適用は違法であると主張して上告した。
あてはめ
まず、請託とは将来の職務行為の依頼を指すと解される。本件において、仮に受託収賄の要件である請託の事実に誤認があったとしても、贈賄罪を規定する刑法198条は、請託の有無によって法定刑が加重される規定を置いていない。被告人は贈賄者の側にあり、請託関係の故に刑を加重されているわけではないため、公務員側の請託認定に関する瑕疵は、被告人に対する判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる事由(刑訴法411条)には当たらないと解される。
結論
被告人Aが贈賄者である本件においては、請託の認定に不備があったとしても、刑訴法411条を職権適用して原判決を破棄すべきものとは認められない。
実務上の射程
収賄罪の類型(単純収賄と受託収賄)の区別が贈賄側の責任にどう波及するかを示す。実務上、贈賄罪の成立自体に「請託」は必須ではないが、請託があれば贈賄罪の態様としてより悪質と評価され得る。しかし、上告審においては、請託の有無が贈賄側の刑の加重事由でない以上、その認定の瑕疵のみでは破棄事由になりにくいことを示唆している。
事件番号: 昭和30(あ)3991 / 裁判年月日: 昭和35年12月13日 / 結論: 棄却
税務署の直税課資料係の大蔵事務官は、所得額や所得税額決定の起訴となる資料の調査蒐集の職務権限を有する。