税務署の直税課資料係の大蔵事務官は、所得額や所得税額決定の起訴となる資料の調査蒐集の職務権限を有する。
一 税務署の直税課資料係の大蔵事務官は、所得額または所得税額決定の基礎となる資料の調査蒐集の職務権限を有するか。 二 刑法第一九八条の贈賄罪の成立には、贈賄者に収賄者の職務権限に対応する義務があることを必要とするか。
刑法197条,刑法198条,大蔵省組織規程(昭和27年8月大蔵省令110号による改正前のもの)141条(現行142条)
判旨
刑法198条の贈賄罪の成立には、贈賄者に収賄者の職務権限に対応する何らかの義務があることは不要である。また、贈賄者が収賄者に対して職務執行を強制する権限があると誤信していても、罪の成立に影響しない。
問題の所在(論点)
贈賄罪(刑法198条)の成立要件として、贈賄者に収賄者の職務に対応する義務が存在することを要するか。また、収賄者に強制できる権限があると誤信していた場合、罪の成立に影響を与えるか。
規範
贈賄罪(刑法198条)の成立には、贈賄者が収賄者の職務権限に対応する義務を負っていることは必要とされない。また、贈賄者が収賄者に対して強制的な権限を有していると誤信していたとしても、その主観的事情は贈賄罪の成否を左右するものではない。
重要事実
被告人Aは、税務署の直税課資料係に勤務し、所得額等の決定基礎資料の調査・収集を職務とする大蔵事務官Bに対し、その職務に関して金員を供与した。これに対し弁護側は、贈賄罪が成立するためには贈賄者に何らかの義務があることを要すると主張し、また、贈賄者が収賄者に強制する権限があると誤信していた点などを挙げて有罪判決を争った。
あてはめ
本件において、大蔵事務官Bは組織規程に基づき、譲渡所得税決定の基礎資料の調査等という職務権限を有していた。被告人がBに対し、その職務に関係して金銭を供与した事実は、贈賄罪の構成要件に該当する。弁護人は、贈賄側に義務が存在しないことや、強制権限の誤信を主張するが、贈賄罪は職務の不可買収性を保護法益とするものであり、贈賄側の義務の有無や、強制権限に関する主観的な誤信は、賄賂を供与したという客観的事実およびその認識を妨げるものではない。
結論
被告人に贈賄罪が成立する。贈賄側の義務の有無や、公務員への強制権限に関する誤信は、同罪の成立を妨げない。
実務上の射程
贈賄罪の成否を論じる際、公務員側の職務権限(密接関連職務を含む)が認められれば、贈賄者側の属性や特別な義務、主観的な対等性の認識などは問題とならないことを示す射程を持つ。答案では、職務権限の認定に続けて、贈賄側の主観的事情による抗弁を排除する文脈で使用する。
事件番号: 昭和29(あ)2409 / 裁判年月日: 昭和30年3月17日 / 結論: 棄却
一 室内装飾工事の請負人が特別調達局施行の工事につき同局勤務の総理府事務官に対し、一定の職務行為の依頼でなしに、単にその工事の監督促進につき何かと世話になつた謝礼および将来好意ある取扱を受けたい趣旨で金員を供与するのは、刑法第一九八条第一九七条第一項後段にいう請託を贈賄したことにはならない。 二 右の場合これを刑法第一…