一 警察署長に対し、その職務に関し請託をして、その警察署において使用する自動車の改造費用の負担を申込んだときは、その警察署は刑法第一九七条の二にいう第三者に当る。 二 賄賂供与申込の罪は、第一点に説示したように申込者の一方的行為により成立るのであるから、申込の趣旨が相手方たる公務員に認識されなかつたとしても、相手方に対して認識し得べき状態においてこれをなすにおいては成立するものと解するを相当とし、同趣旨の原判示に誤はない。
一 警察署長に対する賄賂供与の申込においてその警察署が刑法第一九七条の二の第三者たりうるか 二 賄賂供与申込罪の成立と相手方の知情の要否
刑法197条の2,刑法198条
判旨
賄賂供与申込罪は、申込者の申込みによって成立する一方的行為であり、相手方たる公務員がその趣旨を認識し得べき状態にあれば、現実に認識しなかったとしても成立する。また、警察署長に対する請託の代償として当該警察署に利益を供与する申込みは、第三者供賄罪における「第三者」への供与申込に当たる。
問題の所在(論点)
1. 賄賂供与申込罪の成立に、相手方である公務員の現実の認識が必要か。2. 公務員の属する官署・機関は、刑法197条の2にいう「第三者」に含まれるか。
規範
刑法198条の賄賂供与申込罪は、申込者の一方的行為により成立する。したがって、申込の趣旨が相手方たる公務員に現実に認識されなかったとしても、相手方に対して認識し得べき状態においてこれを行えば足りる。また、第三者供賄(刑法197条の2)における「第三者」には、公務員の属する行政機関自体(本件では警察署)も含まれる。
重要事実
被告人は、警察署長に対し、その職務に関し請託を行い、その代償として当該署長が属する国家地方警察の警察署(岡山県後月地区警察署)に対して利益を供与する旨の申込みをした。この申込みについて、相手方である署長がその趣旨を現実に認識していたか、また、公務員が属する組織自体が「第三者」に該当するかが争点となった。
あてはめ
1. 賄賂供与申込罪は申込者の意思表示によって完成する挙動犯的性格を有する。本件において被告人が署長に対し、認識し得べき態様で利益供与を申し出た以上、仮に署長がその真意を認識していなかったとしても、犯罪の成立を妨げない。 2. 第三者供賄罪の趣旨は公務の純潔性を保護することにある。本件で利益供与の対象とされた警察署は、職務を行う公務員本人とは別個の主体であり、当該公務員の職務の代償としてそこに利益を投じることは、第三者に対する利益供与の申込にあたると評価できる。
結論
被告人に賄賂供与申込罪が成立するとした原判決は正当である。相手方が認識し得べき状態で申込みがなされれば、現実の認識は不要であり、また所属官署も「第三者」に該当する。
実務上の射程
賄賂供与申込罪の既遂時期および「第三者」の範囲を確定させた重要な判例である。答案上は、相手方が受諾を拒絶した場合や、申込みの内容を誤解・看過した場合でも、客観的に伝達可能な状態であれば既遂となる根拠として引用する。また、官署に対する寄附等の名目による賄賂性を認める際の論拠となる。
事件番号: 昭和33(あ)900 / 裁判年月日: 昭和34年7月30日 / 結論: 破棄自判
本件犯行当時の刑法一九七条の四(現行法一九七条の五)により没収または追徴しうるのは、収受した賄賂に限られたものであるが、本件犯行は、原審の是認した第一審判決の認定したとおり「……所得申告納税につき有利な取扱を受けたき趣旨の下に、その報酬として現金二万円を右奥所を介して提供し、以つて賄賂の申込をした」というのであつて、右…