本件犯行当時の刑法一九七条の四(現行法一九七条の五)により没収または追徴しうるのは、収受した賄賂に限られたものであるが、本件犯行は、原審の是認した第一審判決の認定したとおり「……所得申告納税につき有利な取扱を受けたき趣旨の下に、その報酬として現金二万円を右奥所を介して提供し、以つて賄賂の申込をした」というのであつて、右認定の下においては、右金員は未だ前記刑法一九七条の四の収受した賄賂に当るものということはできない。
刑法第一九七条の五にいう「収受した賄賂」にあたらない事例。
刑法197条の5
判旨
刑法197条の5(旧197条の4)に基づく賄賂の没収・追徴は、公務員等が実際に「収受した」賄賂に限られる。賄賂の供与者が仲介者を介して申込を行ったに過ぎず、相手方に賄賂が収受されていない段階では、当該金員を同条に基づき追徴することはできない。
問題の所在(論点)
贈賄者が賄賂の申込のために提供した金員が、相手方に収受されていない場合であっても、刑法197条の5に基づき当該金員を追徴することができるか。すなわち、同条の没収・追徴の対象となる「賄賂」の範囲が問題となる。
規範
刑法197条の5(賄賂の没収及び追徴)の規定は、収受した賄賂に限り適用される。したがって、贈賄側が賄賂を提供し、あるいはその申込をしたに止まり、公務員側がこれを収受するに至っていない場合には、同条を適用して当該金員を没収または追徴することは許されない。
重要事実
被告人は、自身の所得申告納税につき有利な取計らいを受ける目的で、仲介者Aを介して公務員Bに対し、報酬として現金2万円を提供し、賄賂の申込をした。第一審および原審は、被告人に対し、旧刑法197条の4(現行197条の5)を適用し、当該2万円の追徴を命じた。これに対し、被告人側が法令違反を理由に上告した。
あてはめ
本件において、被告人の賄賂提供の意思表示は仲介者Aによって相手方Bに伝達されているが、認定された事実は「現金2万円をAを介して提供し、もって賄賂の申込をした」という点に止まる。この事実関係の下では、当該金員は未だ「収受された賄賂」に当たるとはいえない。刑法197条の5は収受された賄賂を対象とするものであるから、収受に至っていない申込段階の金員について、同条を根拠に追徴することは法解釈上認められない。
結論
被告人から現金2万円を追徴することはできない。したがって、追徴を認めた原判決および第一審判決には法令の違反があり、破棄を免れない。
実務上の射程
賄賂罪における没収・追徴の対象を「収受されたもの」に限定する実務上の基本判例である。答案作成上は、没収・追徴の可否が問われた際、当該賄賂が既遂(収受済)か申込段階(未収受)かを区別し、本判例を引用して197条の5の適用の有無を判断する。なお、収受されていない賄賂の没収については、刑法19条(一般没収)の適用の可否が別途検討対象となる点に注意が必要である。
事件番号: 昭和29(あ)2032 / 裁判年月日: 昭和31年7月3日 / 結論: 棄却
一 警察署長に対し、その職務に関し請託をして、その警察署において使用する自動車の改造費用の負担を申込んだときは、その警察署は刑法第一九七条の二にいう第三者に当る。 二 賄賂供与申込の罪は、第一点に説示したように申込者の一方的行為により成立るのであるから、申込の趣旨が相手方たる公務員に認識されなかつたとしても、相手方に対…