所論原審認定の事実は、犯罪の日時、場所、金員の交付又は供与を受けたとする相手方及びその金額等の点において本件公訴事実と何等の差異もなく、ただ交付又は供与されたとする金員の趣旨について差異あるに止まり、両者間に基礎たる事実の同一性ありと認め得るばかりでなく、その罰条の点においても共に公職選挙法二二一条一項に該当し、単に五号(交付)によるか、一号(供与)によるかの差異あるに過ぎないのであつて、原審が本件公訴事実に対し、訴因、罰条の変更手続を経ないで所論のような判示事実を認定処断したとしても被告人の防禦権の行使に不意打的に実質的な不利益を及ぼしたものということはできない(昭和二六年(あ)第二五二六号、同二九年一月二八日当法延判決参照)。
選挙違反罪において交付又は供与された金員の趣旨につき差異ある場合と訴因変更の要否
公職選挙法221条1項1号,公職選挙法221条1項5号,刑訴法312条,刑訴法256条,刑訴法338条4号
判旨
裁判所が訴因変更手続を経ずに公訴事実と異なる事実を認定しても、その事実が公訴事実と基礎において同一であり、かつ被告人の防御権行使に実質的な不利益を及ぼさない場合には、適法である。
問題の所在(論点)
訴因変更手続を経ることなく、金員の趣旨や罰条(号)が異なる事実を認定することが、被告人の防御権を侵害し、違法な裁判となるか。
規範
裁判所が訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)を経ずに公訴事実と異なる事実を認定できるか否かは、認定事実が公訴事実とその基礎において同一であるか、及び被告人の防御権の行使に不意打的に実質的な不利益を及ぼすおそれがないかによって判断される。具体的には、日・時・場所・相手方等の基本的事実の共通性や、適用罰条の異同、具体的態様の差異が防御に与える影響を考慮する。
重要事実
被告人が公職選挙法違反(買収)で起訴された事案。認定された事実は、犯罪の日時、場所、金員の交付・供与を受けた相手方および金額において公訴事実と差異はなかった。しかし、交付または供与された金員の「趣旨」に差異があり、また罰条についても同法221条1項の中で5号(交付)に該当するか、1号(供与)に該当するかという差異が生じていた。
あてはめ
本件では、認定事実と公訴事実の間で、犯罪の日時、場所、相手方、金額といった構成要件を基礎付ける核心的事実に差異はない。差異があるのは金員の趣旨および適用される号(1号か5号か)に止まる。このような軽微な差異は、両事実間の基礎的な同一性を失わせるものではない。また、主要な事実関係に変動がない以上、被告人がそれに対する反証や弁解を行う機会は確保されており、訴因変更手続を経ない認定が被告人の防御権の行使に対して不意打的に実質的な不利益を及ぼしたものとは認められない。
結論
原審が訴因変更手続を経ずに認定事実を処断したことは適法であり、訴訟法違反には当たらない。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する初期の重要判例であり、特に「防御権の不利益」という実質的基準を示した点に意義がある。答案上は、まず事案の同一性を論じた上で、争点の内容からみて被告人が予期し得た範囲内か、あるいは防御の態様に変化が生じないかを検討する際の論拠として使用する。
事件番号: 昭和29(あ)3891 / 裁判年月日: 昭和30年5月20日 / 結論: 棄却
第一審が、被告人Aが昭和二七年九月二五日頃その自宅でBに一二、〇〇〇円を供与したとの公訴事実(第三の9)について、判示第三の8の如くBに対する五、〇〇〇円だけの供与の事実を認定したのは正当である。而してこのような場合に、公訴事実の一二、〇〇〇円と右認定の五、〇〇〇円との差額七、〇〇〇円を認めなかつた理由を特に説明する必…