第一審が、被告人Aが昭和二七年九月二五日頃その自宅でBに一二、〇〇〇円を供与したとの公訴事実(第三の9)について、判示第三の8の如くBに対する五、〇〇〇円だけの供与の事実を認定したのは正当である。而してこのような場合に、公訴事実の一二、〇〇〇円と右認定の五、〇〇〇円との差額七、〇〇〇円を認めなかつた理由を特に説明する必要のないことは原判決の説示するとおりであつて、何等所論理由不備の違法はない。
第一審が公訴事実よりも供与額を少なく認定した場合、その差額につき特に判決の理由において説明することを要するか
刑訴法335条1項,刑訴法44条1項,刑訴法378条4号
判旨
公訴事実よりも縮減された事実を認定する場合において、両者が同一性を有し、かつ差額分の不認定について特段の説明を要しないときは、訴因変更手続を経ることなく、理由不備の違法も生じない。
問題の所在(論点)
公訴事実の金額を下回る金額を認定する場合に、訴因変更手続を要するか。また、不認定部分について判決で明示的な理由説明を要するか(刑事訴訟法312条、378条4号の解釈)。
規範
訴因の記載に比較して、認定された事実が数量的に減少しているに過ぎない場合、あるいは同一の社会的事実の範囲内にある限定的な認定である場合には、原則として訴因変更手続(刑訴法312条1項)を要しない。また、訴因と比較して認められなかった部分について、判決において特段の説明を付さなくとも、理由不備(同法378条4号)の違法とはならない。
重要事実
被告人Aは、公職選挙法違反の事案において、Bに対し「1万2000円」を供与したとの公訴事実で起訴された。しかし、第一審は証拠に基づき、B自身の選挙運動報酬として供与されたのは「5000円」であると認定し、残りの5000円は他者(C)への供与の取次ぎに過ぎないとした(計1万円の授受はあったが、Bへの直接供与は5000円とした)。被告人側は、公訴事実と認定事実の差額について説明がない点や、訴因変更手続を欠いた点を違法として上告した。
あてはめ
本件において、第一審が認定した「Bに対する5000円の供与」という事実は、公訴事実である「Bに対する1万2000円の供与」に包含される。被告人自身の供述によっても、一部が自らの報酬であり一部が取次ぎ用であるという内訳が判明しており、公訴事実の範囲内での縮減認定といえる。このような場合、公訴事実との差額(7000円)を認めなかった理由を個別に説明する必要はなく、訴因変更手続を尽くさなかったという違法も認められない。事実の同一性が保持されている以上、被告人の防御に実質的な不利益が生じたとはいえないためである。
結論
上告棄却。公訴事実の一部について縮減された事実を認定する場合、特段の事情がない限り訴因変更手続は不要であり、理由不備にも当たらない。
実務上の射程
縮減認定における訴因変更の要否に関する典型例である。公訴事実と認定事実が「数量的な差異」に留まる場合や、認定事実が訴因に含まれる場合には、被告人の防御の観点から不意打ちにならないため、312条の手続なく認定できる。答案では「訴因の特定の程度」と「審判対象の画定」の文脈で、縮減認定の許容性を論じる際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和28(あ)4213 / 裁判年月日: 昭和29年4月22日 / 結論: 棄却
所論原審認定の事実は、犯罪の日時、場所、金員の交付又は供与を受けたとする相手方及びその金額等の点において本件公訴事実と何等の差異もなく、ただ交付又は供与されたとする金員の趣旨について差異あるに止まり、両者間に基礎たる事実の同一性ありと認め得るばかりでなく、その罰条の点においても共に公職選挙法二二一条一項に該当し、単に五…