公職選挙法第二二一条第一項第一号の供与罪の起訴に対し訴因および罰条の変更手続をとらないで同項第五号の交付罪を認定しても違法ではない。
公職選挙法第二二一条第一項第一号の供与罪の起訴に対し同項第五号の交付罪を認定する場合と訴因罰条変更手続の要否
公職選挙法221条1号,公職選挙法221条5号,刑訴法312条,刑訴規則209条
判旨
供与罪の起訴に対し、訴因変更の手続を経ずに交付罪の事実を認定しても、公訴事実の同一性を欠かず、かつ法定刑も同一である等の事情があれば、被告人の防御権を不当に制限したとはいえず適法である。
問題の所在(論点)
検察官が「供与」の訴因で起訴した事実に対し、裁判所が訴因変更手続を経ずに「交付」の事実を認定することが、被告人の防御権の観点から許されるか。具体的には、交付罪と供与罪の間で訴因変更の要否が問題となる。
規範
訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)を要するか否かは、原則として、審判対象の画定に不可欠な事項に変化が生じるか、あるいは被告人の防御に実質的な不利益を及ぼすか否かによって判断される。もっとも、公訴事実の同一性が認められ、かつ被告人の防御権を不当に制限するおそれがないと認められる場合には、訴因変更を経ずに他方の事実を認定しても適法となる。
重要事実
被告人が公職選挙法違反の買収犯として、金銭を「供与」したとの訴因で起訴された。しかし、原判決は訴因変更の手続を経ることなく、被告人が金銭を「交付」したとの事実を認定した。これに対し弁護人は、訴因変更なくして異なる事実を認定したことは、被告人の防御権を不当に制限する違法があるとして上告した。
あてはめ
本件における「交付罪」と「供与罪」は、いずれもいわゆる買収犯の一態様であり、公訴事実の同一性を欠くものではない。また、両罪の法定刑は同一である。このように、罪名や態様が近接しており、刑罰の重さも変わらない以上、訴因変更の手続を経ずに認定を切り替えたとしても、被告人にとって不意打ちとはならず、その防御権を不当に制限したものとは認められない。
結論
訴因変更の手続を経ずに交付罪の事実を認定した原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する初期の判例であり、事実認定が訴因と多少異なっても、防御の利益を害さない範囲であれば許容されることを示している。司法試験においては、本件のような買収犯の態様の差異や、共謀共同正犯から単独犯への変更など、防御の不利益の有無が焦点となる場面で、訴因変更の要否を論じる際の論拠として引用できる。
事件番号: 昭和29(あ)3891 / 裁判年月日: 昭和30年5月20日 / 結論: 棄却
第一審が、被告人Aが昭和二七年九月二五日頃その自宅でBに一二、〇〇〇円を供与したとの公訴事実(第三の9)について、判示第三の8の如くBに対する五、〇〇〇円だけの供与の事実を認定したのは正当である。而してこのような場合に、公訴事実の一二、〇〇〇円と右認定の五、〇〇〇円との差額七、〇〇〇円を認めなかつた理由を特に説明する必…