判旨
起訴状の朗読は公判調書の必要的記載事項ではなく、朗読の事実が立証されない限り訴訟手続の法令違反とは認められない。また、選挙運動の報酬に実費が含まれていても、それが報酬としての性質を有する限り供与罪が成立する。
問題の所在(論点)
1. 起訴状の朗読がなされなかったことが公判手続の違背(訴訟法違反)となるか。 2. 実費を含む金員の供与が、公職選挙法上の報酬供与罪における「報酬」に該当するか。
規範
1. 刑事訴訟規則44条は起訴状の朗読を公判調書の記載要件としていない。したがって、調書に記載がないことをもって直ちに手続違背と断定することはできない。 2. 選挙運動に関する報酬供与罪の成否において、供与された金員に実費が含まれていたとしても、それが選挙運動の対価(報酬)としての趣旨を有するものである限り、同罪の成立を妨げない。
重要事実
被告人AおよびBは、選挙運動の報酬として金員を供与したとして起訴された。第一審判決は、当該金員が実費を含んだ選挙運動の報酬であると認定した。弁護人は、第一審において起訴状の朗読がなされなかったこと、および供与された金員は実費であり報酬ではないことを理由に、訴訟法違反および事実誤認を主張して上告した。
あてはめ
1. 刑事訴訟規則44条の規定に照らせば、起訴状の朗読は公判調書の記載要件ではない。本件において朗読がなされなかったことを直接証明する証拠はなく、単に調書に記載がないことのみをもって違法とはいえない。 2. 第一審が認定した事実によれば、供与された金員は「実費を含んだ選挙運動の報酬」としての性格を有する。単なる実費の弁償にとどまらず、運動の対価としての趣旨が認められる以上、報酬供与としての違法性が認められる。
結論
本件上告を棄却する。起訴状朗読の不記載は手続違背にならず、また実費込みの報酬供与についても有罪認定を維持するのが相当である。
実務上の射程
公判手続の適法性推認に関する判断および、公職選挙法における報酬の意義について示したものである。実務上、公判調書の不備を理由に手続違背を主張する際の限界を示すとともに、報酬の定義に実費相当分が含まれていても報酬性を否定できないという解釈指針として機能する。
事件番号: 昭和28(あ)2720 / 裁判年月日: 昭和28年10月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判調書の記載に基づいて第一審の訴訟手続の適法性が認められる場合には、当該公判調書の内容を理由として訴訟手続の違背を主張することは、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が第一審裁判所の構成の違法、審判公開に関する違法、およびその他の訴訟手続の違背を理由として上告を申し立てた事案…