一 被告人は、甲が立候補予定者に当選を得しめる目的で選挙人等に金銭を供与する際、その案内や、選挙人を紹介する等の行為をしてこれを幇助したという公職選挙法第二二一条第一項第一号違反の幇助の訴因に対し、右甲との同条項違反の共同正犯の事実を認定するには、訴因変更手続を経ることを要する。 二 刑訴法第三一二条第二項により裁判所が訴因変更命令を発しても、検察官がこれに応じて訴因変更手続をとらない限り、訴因は変更されないと解すべきである。
一 公職選挙法第二二一条第一項第一号の金銭供与の幇助の訴因に対し共同正犯の事実を認定するには訴因変更手続を要するか。 二 訴因変更命令にはいわゆる形成的効力が認められるか。
刑訴法312条
判旨
裁判所が訴因変更命令を発しても、検察官がこれに応じない限り訴因変更の効力は生じない。また、幇助犯から共同正犯への認定変更は、新たな共謀事実の認定を要し法定刑も重くなるため、訴因変更手続を要する。
問題の所在(論点)
1. 幇助犯として起訴された事実を、訴因変更手続を経ずに共同正犯として認定することは許されるか(訴因変更の要否)。 2. 裁判所の訴因変更命令に、検察官の申請を待たずに訴因を具体的に変更させる効力(形成的効力)が認められるか。
規範
1. 訴因変更の要否:認定事実が訴因と異なる場合、それが被告人の防禦権の行使に実質的な不利益を与えるものであれば、刑事訴訟法312条1項の訴因変更手続を要する。特に、新たな事実認定(共謀等)を要し、かつ法定刑が重くなる場合には、原則として訴因変更が必要である。 2. 訴因変更命令の効力:訴因の変更は検察官の権限であり(当事者主義的構造)、裁判所が刑事訴訟法312条2項に基づき訴因変更を命じても、検察官がこれに従って変更手続を執らない限り、命令自体によって訴因が変更されるという形成的効力は認められない。
重要事実
被告人Aは、公職選挙法違反(買収)の幇助犯として起訴された。第一審裁判所は、審理の結果、Aが正犯と共謀した共同正犯であると判断し、検察官に対し共同正犯への訴因変更を命じた。しかし、検察官がこの命令に従わなかったため、裁判所は命令自体に訴因を動かす効力があるとして、訴因変更手続を経ないまま共同正犯として有罪を宣告した。原審もこれを是認したため、被告人が上告した。
あてはめ
1. 幇助犯から共同正犯への変更について:共同正犯を認めるには、当初の訴因に含まれていない「共謀の事実」を新たに認定する必要がある。また、正犯として処断されることで法定刑も重くなる(刑法60条、62条1項参照)。したがって、被告人の防禦権に影響を及ぼすことは明らかであり、訴因変更手続を要する。 2. 訴因変更命令の効力について:刑事訴訟法上の基本的構造において、訴因の提示・変更は検察官の権限に属する。裁判所に直接訴因を動かす権限を認めるとこの構造に反するため、検察官が応じない以上、訴因は変更されたとはみなせない。
結論
訴因変更命令に形成的効力はなく、検察官が変更に応じないまま共同正犯の事実を認定した一審判決およびこれを維持した原判決には、訴因変更手続を怠った違法がある。本件被告人に関する部分は破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
司法試験においては、訴因変更の要否(「防禦権不利益説」)の典型例として、幇助から共同正犯への変更を論じる際に活用する。また、訴因変更命令の限界(形成的効力の否定)と、検察官が命令に従わない場合の裁判所の措置(義務違反としての無罪または訴因通りの認定)を論述する際の基礎となる判例である。
事件番号: 昭和28(あ)4213 / 裁判年月日: 昭和29年4月22日 / 結論: 棄却
所論原審認定の事実は、犯罪の日時、場所、金員の交付又は供与を受けたとする相手方及びその金額等の点において本件公訴事実と何等の差異もなく、ただ交付又は供与されたとする金員の趣旨について差異あるに止まり、両者間に基礎たる事実の同一性ありと認め得るばかりでなく、その罰条の点においても共に公職選挙法二二一条一項に該当し、単に五…