判旨
起訴状記載の収賄額と判決で認定された額に差異があっても、事実の同一性が認められる限り不告不理の原則には反しない。また、身体拘束終了後の供述については、拘束中の不当な影響が直接及ぶものではない限り、証拠能力を肯定し得る。
問題の所在(論点)
1.起訴状記載の金額(1万円)と認定事実の金額(8千円)の差異は、不告不理の原則に反するか。2.長期間の身体拘束を受けていた者の供述を証拠として採用することは適法か。
規範
不告不理の原則(刑事訴訟法378条3号参照)に照らし、起訴状に記載された具体的犯罪事実と判決により認定される事実との間に、その社会的実態において同一性が認められる場合には、裁判所は訴因変更の手続きを経ることなく事実を認定することができる。また、任意性に疑いのある供述(刑訴法319条1項等)の判断においては、問題となる供述がなされた際の状況、特に身体拘束の有無や時期を重視すべきである。
重要事実
被告人が相被告人Aから金員の供与を受けたとして起訴された事案である。起訴事実では供与額が1万円とされていたが、原判決では8千円の供与があったと認定された。また、証拠とされたAの検察官面前調書は、Aが約40日間の勾留を経て保釈された後に作成されたものであった。弁護人は、金額の相違による不告不理原則違反と、長期間の勾束による精神的苦痛下での供述採用の違法を主張して上告した。
あてはめ
1.金額の差異について:被告人がAから金員の供与を受けたという基本的犯罪事実は共通しており、1万円と8千円の差異は、事案の同一性を損なうほどの重要な変更ではない。したがって、両者は同一事実であると認められ、不告不理の原則に反することはない。2.証拠能力について:弁護人は身体拘束による苦痛を主張するが、原審が採用したAの供述調書は、保釈によって身体拘束を解かれた後の日付で作成されたものである。したがって、勾留中の取り調べに対する不当な影響が継続しているとは認められず、証拠として採用することに違法はない。
結論
起訴事実と認定事実に同一性が認められるため不告不理の原則違反はなく、また保釈後の供述調書を採用した点に証拠法上の違法もないため、上告を棄却する。
実務上の射程
収賄罪等の金銭授受の事案において、金額の多少の相違が訴因の同一性の範囲内にあることを示した事例である。また、任意性の判断において、供述時の「身体拘束の有無」が重要な考慮要素となることを示唆しており、自白の証拠能力を争う際のあてはめで参考になる。
事件番号: 昭和28(あ)3201 / 裁判年月日: 昭和28年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当な抑留・拘禁中に作成された供述調書であっても、その一事のみをもって直ちにその証拠能力が否定されるものではなく、任意性が認められ、かつ被告人の同意がある場合には証拠とすることができる。 第1 事案の概要:被告人が検察官に対して供述した調書について、第一審の公判において被告人自身が証拠とすることに…