判旨
裁判所は、審理の経過に鑑み、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずるおそれがないと認めるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因変更手続を経ずに訴因と異なる事実を認定することができる。
問題の所在(論点)
裁判所が訴因変更手続を経ずに、起訴状記載の訴因(詐欺)とは異なる事実(横領)を認定することが許されるか。具体的には、訴因変更手続の要否を判断する基準が問題となる。
規範
刑訴法が訴因及びその変更手続を定めた趣旨は、審理の対象・範囲を明確にして被告人の防禦に不利益を与えない点にある。したがって、①公訴事実の同一性を害しない限度において、②審理の経過に鑑み、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がないと認められる場合には、訴因変更手続を経ることなく、訴因と異なる事実を認定することが許容される。
重要事実
被告人は詐欺の公訴事実で起訴されたが、第一審において弁護人が第1回公判で「本件は横領として審判されるべきである」と主張し、これに沿った証拠調べが行われた。第一審裁判所は、訴因変更手続を経ることなく横領の事実を認定し、刑法252条1項を適用して処断した。これに対し、被告人側が訴因変更手続を経なかったことの違法を主張して上告した。
あてはめ
本件では、当初の訴因は詐欺であったが、被告人側の弁護人自らが第1回公判から横領罪の成立を主張し、そのための証拠調べを申請している。裁判所もその申請に基づき証人尋問を実施した上で、弁護人の主張通りに横領の事実を認定した。このような審理の経過に照らせば、訴因変更手続を経ずとも被告人の防禦に実質的な不利益が生ずるおそれはないといえる。また、詐欺から横領への変更は公訴事実の同一性を害しない範囲内のものであると解される。
結論
被告人の防禦に実質的な不利益が生ずるおそれがないため、訴因変更手続を経ずに横領の事実を認定した第一審の措置は適法であり、これを是認した原判決に違法はない。
事件番号: 昭和27(あ)2704 / 裁判年月日: 昭和29年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が起訴状記載の訴因と実質的に異ならない犯罪事実を認定する場合、訴因変更の手続きを経ずとも、被告人の防御権を不当に制限しない限り違法ではない。 第1 事案の概要:被告人らが虚偽の運賃請求を真実の運賃請求のように装って金銭を騙取したという詐欺事件において、第一審判決が認定した事実と起訴状記載の訴…
実務上の射程
訴因変更手続の要否に関する「防禦不利益説(実質的不利益説)」を確立した重要判例である。答案上では、訴因と認定事実が異なる場合に、(1)公訴事実の同一性(312条1項)を検討した上で、(2)本判例の規範(不意打ちによる防禦権侵害の有無)を用いて訴因変更の要否を論じる際の必須の枠組みとなる。
事件番号: 昭和33(あ)1581 / 裁判年月日: 昭和36年11月10日 / 結論: 棄却
本件の如く、業務上横領罪の訴因を肯定した第一審判決の認定に対し、被告人が控訴審において判示金員に対する被告人の占有は業務に基くものでないから業務上横領罪が成立しない旨抗争している場合において控訴審が右の主張を理由があるとして単純横領罪と認定するには訴因変更の手続を経ることを要しないものと解する。