被告人はA事務局の外務員として同連盟賛助会員の募金並びに賛助金集金等の業務に従事中、昭和二六年三月二四日頃から同年八月一六日頃までの間二五回にわたつてB株式会社外二四名から集金した合計一七五〇〇〇円をその都度ほしいままに着服横領したとの業務上横領の訴因と、被告人は昭和二五年一〇月末まで右事務局員として右事務に従事し同日解職されたものであるが、なお右事務局員であるが如くよそおい前記期間中右二五名から賛助金名義で前記金額を騙取したとの詐欺の訴因とは、事実の同一性を失わない。
一 公訴事実の同一性の認められる一事例 二 業務上横領と詐欺
刑訴法312条,刑訴法256条,刑法253条,刑法246条
判旨
訴因の変更が許されるためには、変更前後の訴因において基本的事実関係の同一性が維持されていることが必要である。また、手続面では被告人の防御権の行使に実質的な不利益が生じないよう配慮されなければならない。
問題の所在(論点)
訴因の予備的追加(変更)において、変更前後の訴因に「公訴事実の同一性」(刑事訴訟法312条1項)が認められるか。また、訴因変更によって被告人の防御権の行使に実質的な支障が生じていないか。
規範
刑事訴訟法312条1項にいう「公訴事実の同一性」は、訴因の基本的事実関係において同一性を失わないかどうかを基準に判断する。また、訴因変更が認められるためには、被告人の防御権の行使に遺漏が生じないような適正な手続が確保されている必要がある。
重要事実
検察官は、起訴状および追起訴状に記載された当初の訴因に対し、後に訴因罰条予備的追加申請を行った。被告人側は、この変更が公訴事実の同一性を欠き、また防御権を侵害するものであるとして、訴訟手続の違法を主張して上告した。具体的な犯罪事実は本判決文からは不明であるが、第一審がこれら変更後の訴因に基づき審理を進めたことを原審が是認した事案である。
あてはめ
本件における起訴状・追起訴状の記載内容と、追加申請された訴因の内容を比較すると、両者はその基本的事実関係において同一性を失っていないと認められる。また、一審における訴因変更後の審理経過を検討しても、被告人が防御権を行使するにあたって遺漏があったと認められるような事情は存在しない。したがって、訴因変更の手続に違法はない。
結論
本件の訴因変更は公訴事実の同一性の範囲内であり、かつ被告人の防御権を侵害するものでもないため、適法である。
実務上の射程
訴因変更の可否を判断する際の「基本的事実関係の同一性」という古典的な枠組みを示す。答案上は、両訴因の「事実の共通性」および「非両立性」の観点から同一性を論じ、併せて被告人の防御権への不利益の有無を検討する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)515 / 裁判年月日: 昭和29年9月30日 / 結論: 棄却
控訴審が刑訴三九三条の規定により事実の取調をなし、同四〇〇条但書の規定により被告事件について更に判決をする場合において、裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因の変更を許さなければならないものであること同四〇四条、三一二条の規定により明白である。
事件番号: 昭和30(あ)3376 / 裁判年月日: 昭和33年5月20日 / 結論: 棄却
一 「被告人はA株式会社代表取締役として同会社の営業を総理しているものであるが、昭和二五年七月一四日頃同会社において被告人保管にかかる同会社資金中より甲が同人所有にかかる同会社株式一万株を被告人に譲渡する代金として金五〇万円を同会社会計課長丙をして勝手に右甲に対し支払わしめて横領した」旨の業務上横領の訴因と、「被告人は…