本件の如く、業務上横領罪の訴因を肯定した第一審判決の認定に対し、被告人が控訴審において判示金員に対する被告人の占有は業務に基くものでないから業務上横領罪が成立しない旨抗争している場合において控訴審が右の主張を理由があるとして単純横領罪と認定するには訴因変更の手続を経ることを要しないものと解する。
訴因変更手続を要しない事例―業務上横領と単純横領。
刑訴法312条,刑法252条,刑法253条
判旨
業務上横領罪の訴因に対し、被告人の占有が業務に基づかないことを理由に単純横領罪を認定する場合、訴因変更手続を経る必要はない。
問題の所在(論点)
業務上横領罪として起訴された事案において、業務性の要件を欠く単純横領罪を認定する際、訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)を経る必要があるか。特に被告人自らが業務性を否定する主張を行っている場合の要否が問題となる。
規範
訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)の要否は、審判対象の画定および被告人の防御権行使への実質的不利益の有無により判断される。もっとも、縮減された認定(縮小認定)を行う場合であり、かつ被告人が公判過程で当該事実について十分に争っているなど、不意打ちとならず防御権を侵害しない場合には、訴因変更手続を要しない。
重要事実
第一審判決は、被告人を業務上横領罪(刑法253条)の訴因に基づき有罪と認定した。これに対し被告人は、控訴審において「金員に対する占有は業務に基づくものではない」と主張し、業務上横領罪の成立を争った。控訴審は被告人の主張を認め、業務性の要件を欠く単純横領罪(刑法252条1項)として認定し直したが、その際に訴因変更手続は経ていなかった。
あてはめ
本件において、単純横領罪は業務上横領罪に含まれる構成要件であり、罰則がより軽い後退的認定(縮小認定)にあたる。また、被告人自らが「業務に基づかない占有」であることを控訴審で積極的に抗争しており、単純横領としての認定は被告人の予期しない不意打ちとはいえない。したがって、防御権に対する実質的な不利益は認められないため、訴因変更手続を経ずとも、訴因に含まれる事実の範囲内として単純横領罪を認定することが許容される。
結論
業務上横領罪の訴因に対し、被告人の主張を容れて単純横領罪を認定する場合、訴因変更手続を経ることは要しない。
実務上の射程
重い罪名から、その構成要件を一部欠く軽い罪名へ変更する「縮小認定」の典型例である。答案上では、訴因変更の一般論を述べた後、本判例を根拠に「被告人の防御に実質的不利益がない」ことを肯定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)5545 / 裁判年月日: 昭和29年6月15日 / 結論: 棄却
訴因変更の手続を経ないで起訴事実よりも縮少された事実を認定することの差支えないものであることは昭和二六年(あ)第七八号同年六月一五日第二小法廷判決「集五巻七号一二七七頁以下」の趣旨に徴して明らかである。