一 第一審が業務上横領罪の訴因、罰条について判決した事件について、控訴審が背任の点についても既に十分な証拠調がされているというだけの理由で、未だ任務に背いたか否かの点について十分な防禦を尽していると認められないのにかかわらず、背任について訴因罰条の追加、変更なしに審判することは違法である。 二 A公団BA局長が先に従業員に貸し付けた越冬資金の返済方を強行すれば、ストライキは避けられない情勢の下において、石炭操作賃金名義で資金を作り、恰も帳簿上右越冬資金の返済があつたかのように装つて、規定上は許されない右資金の返済方の免除を行つたからといつて、直ちに背任罪を構成するとはいえない。 三 右の場合背任罪は成立するが期待可能性がない旨の判断は無用の議論であつて、判例と相反する判断をしたものとはいえない。
一 訴因、罰条の追加、変更をさせないで審判することが違法と解せられる事例 二 背任の成立しない事例 三 期待可能性についての無用の判示と判例違反
刑訴法256条,刑訴法312条,刑法253条,刑法247条
判旨
訴因変更手続を経ずに被告人の防御に影響を及ぼす事実を認定することは許されず、また、業務運営上有利な判断に基づく行為は背任罪の構成要件である任務違背や損害発生を欠くため、期待可能性を論じるまでもなく同罪は成立しない。
問題の所在(論点)
1. 業務上横領罪の訴因の下で、訴因変更手続を経ずに背任罪の事実を認定することが許されるか(刑訴法312条1項、被告人の防御権)。 2. 業務運営上有利と判断される行為について、背任罪の構成要件(任務違背・損害)を認めた上で期待可能性を論じることの当否。
規範
1. 訴因および罰条の追加・変更手続は、被告人の防御権を保護するための規定であり、公訴事実が同一であっても、被告人の防御に十分な配慮を払うことなく、訴因に示されていない事実を認定することは原則として許されない。 2. 背任罪の成否において、行為が結果的に組織の業務運営のため有利であったといえる場合には、形式的に違法の形をとっていても、任務違背行為および財産上の損害の発生を認めることはできない。
重要事実
被告人は業務上横領罪として公訴提起され、第一審で有罪とされた。被告人は一貫して、石炭諸掛の水増し事実は認めるが不法領得の意思はなく、争議を避けるためやむを得ない行為であったと主張して防御していた。控訴審は、訴因変更手続を経ずに背任罪の成否を検討し、構成要件該当性を認めた上で、適法行為の期待可能性がないとして無罪を言い渡した。検察側は、期待可能性を否定した判断が判例違反であるとして上告した。
あてはめ
1. 被告人は終始、業務上横領罪に対する防御を行っており、背任罪の構成要件である「任務違背」に関する本部との交渉関係等については十分な防御の機会を与えられていなかった。したがって、訴因変更なしに背任罪の事実を認定した原審の手続は、被告人の防御に影響を及ぼすものであり違法である。 2. 原判決は、貸付金回収を打ち切ることが当時の情勢下で公団の業務運営上有利であったと認定している。この認定を前提とする限り、任務に背く行為があったとも、公団に損害を与えたともいえず、構成要件段階で背任罪の成立が否定される。期待可能性を検討するまでもなく、無罪の結論は妥当である。
結論
被告人の行為は、任務違背および損害の発生という背任罪の構成要件を欠くため、同罪は成立しない。また、訴因変更なしに背任罪を検討した手続には違法があるが、結論として無罪である以上、判決に影響はない。
実務上の射程
訴因変更の要否について「防御権に実質的な不利益を与えるか」という基準の先駆けとなる判断を示している。また、背任罪において、形式的に規定違反であっても経営判断として組織に利益となる場合は構成要件該当性(任務違背・損害)を欠くことを示唆しており、企業犯罪の防御に有用である。
事件番号: 昭和34(あ)2130 / 裁判年月日: 昭和36年4月27日 / 結論: 棄却
一 原審の確定した事実関係の下においては、本件行為が岐阜県販売農業協同組合連合会の事業の範囲外の行為であつて、農業協同組合法に違反するものであるとした原審の判断は正当である。 二 (原判決の要旨)被告人A等が販連の資金をその事業の範囲外において融資(貸付)することは、販連定款及び農業協同組合法により固く禁止されており、…
事件番号: 昭和30(あ)3376 / 裁判年月日: 昭和33年5月20日 / 結論: 棄却
一 「被告人はA株式会社代表取締役として同会社の営業を総理しているものであるが、昭和二五年七月一四日頃同会社において被告人保管にかかる同会社資金中より甲が同人所有にかかる同会社株式一万株を被告人に譲渡する代金として金五〇万円を同会社会計課長丙をして勝手に右甲に対し支払わしめて横領した」旨の業務上横領の訴因と、「被告人は…