判旨
判決により認定された犯罪事実が、起訴状記載の公訴事実と具体的損害の処置や時期の説示において一部異なっていたとしても、それが事実の同一性の範囲内にある限り、不告不理の原則に反しない。また、被告人が立替払をしていたとしても、当然に不法領得の意思が否定されるわけではない。
問題の所在(論点)
1. 原判決の認定事実が起訴状記載の公訴事実と異なる場合に、公訴事実の同一性を欠き、不告不理の原則に反するか。2. 被告人が被害者に対して立替払をしていた場合、当然に業務上横領等における不法領得の意思が否定されるか。
規範
公訴事実の同一性(刑事訴訟法256条、312条1項)が認められる範囲内の事実認定であれば、裁判所は訴因変更の手続きを経ることなく判決を下すことができ、審判の請求を受けない事項について審判した違法(不告不理の原則違反)は生じない。また、領得の意思の有無は、立替金の存在等の主観的事情のみならず、関係者の合意や受領の資格等の客観的事態から総合的に判断される。
重要事実
被告人Aが、B及び被告人Cの利益を図る目的で行った所為に関し、第一審と控訴審で損害の処置や回収不能となった時期の認定に若干の差異が生じた。また、別の事実について、被告人Aは簡易保険団体の代表者として金員を受領していたが、自身が立替払をしていたことを理由に不法領得の意思を否定して争った。
あてはめ
1. 原判決が追加した判示は、損害の処置を具体的に示し、回収不能の時期を明確にしたに過ぎず、Bらの利益を図る目的や損害財産の内容という事実に変更はない。よって、公訴事実と同一性において欠けるところはない。2. 被告人が立替払をしていた事実は認められるが、それを借入金から差し引いて決済することを関係者が承認していたとは断定できず、代表者の資格で受領した金員を自己の支配下に置く行為は不法領得の意思の顕現といえる。
結論
原判決に審判請求を受けない事項を審判した違法はなく、事実誤認も認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する議論において、事実の細部(損害の具体的処置や時期の精緻化)が訴因の基本的事実関係を揺るがさない場合の規範として活用できる。また、領得罪の不法領得の意思に関し、対抗債権(立替金)の存在が直ちに違法性を阻却しないことを示す実務上の先例となる。
事件番号: 昭和34(あ)2130 / 裁判年月日: 昭和36年4月27日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和30(あ)3376 / 裁判年月日: 昭和33年5月20日 / 結論: 棄却
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