原判決は控訴趣意に包含されている事項につき調査を経ていない違法があるとの所論につき按ずるに、記録に徴すれば本件の証拠物は第一審裁判所から原審裁判所に送付されておらず、原裁判所もこれを取り寄せた形跡は見当らないけれども、控訴趣意において援用されている所論手帳については、所論犯罪事実に関する限り被告人自らその関係部分を摘録して提出した書面が記録に編綴されているのであるから、原裁判所が右手帳そのものを取り調べなかつたとしても、記録について調査したものと認められる以上、所論のごとき違法があるというに足りない。
控訴趣意書に包含される事項の調査がなされたものと認められる一事例
刑訴法392条
判旨
控訴審において、証拠物自体を取り調べていなくても、記録に含まれる当該証拠の抄録等に基づき内容を検討していれば、控訴趣意に対する調査を尽くしたものと認められる。
問題の所在(論点)
控訴裁判所が控訴趣意に関連する証拠物そのものを取り調べなかった場合、刑事訴訟法上の調査義務を尽くしていないという違法が生じるか。
規範
控訴裁判所が控訴趣意に含まれる事項について調査を遂げたといえるためには、必ずしも証拠物そのものを取り調べることを要しない。記録に含まれる代替的な資料(抄録等)を通じて当該事項の内容を把握し、検討を加えているのであれば、実質的な調査を経ていないという違法(刑事訴訟法違反)は認められない。
重要事実
被告人が控訴した際、控訴趣意において特定の手帳を援用した。しかし、第一審裁判所から原審(控訴審)裁判所に対して当該手帳を含む証拠物が送付されておらず、原審もこれを取り寄せた形跡がなかった。一方で、当該手帳の犯罪事実に関する関係部分については、被告人自らが摘録して提出した書面が記録に編綴されていた。弁護人は、原審が手帳そのものを取り調べていないことを、控訴趣意に対する調査を尽くしていない違法であると主張して上告した。
あてはめ
本件では、確かに原審において証拠物である手帳そのものの取り寄せや取調べは行われていない。しかし、当該手帳の内容のうち犯罪事実に関わる重要な部分については、被告人自身が摘録を作成し、それが記録に編綴されていた。原審はこの記録上の摘録を通じて手帳の内容を検討し、判断の基礎としたものと認められる。したがって、証拠物そのものに触れていなくとも、記録に基づき実質的な調査が行われたといえるため、調査を尽くしていないとの違法は当たらない。
結論
原審に所論のような調査不尽の違法はない。したがって、本件上告を棄却する。
実務上の射程
控訴審の事後審的性格を背景に、記録の範囲内で実質的な検討が行われていれば、証拠物の不送付や取調べの不存在のみをもって直ちに違法とはならないことを示している。実務上、記録精査による調査の充足性を認める判断枠組みとして有用である。
事件番号: 昭和30(あ)1186 / 裁判年月日: 昭和32年4月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決により認定された犯罪事実が、起訴状記載の公訴事実と具体的損害の処置や時期の説示において一部異なっていたとしても、それが事実の同一性の範囲内にある限り、不告不理の原則に反しない。また、被告人が立替払をしていたとしても、当然に不法領得の意思が否定されるわけではない。 第1 事案の概要:被告人Aが、…