判旨
刑事訴訟法386条1項1号に基づく控訴棄却の決定は、期間内に控訴趣意書が提出されない場合にのみ行われるものであり、有効な控訴趣意書が提出されている場合には、裁判所は実体判決をもって判断すべきである。
問題の所在(論点)
弁護人が期間内に控訴趣意書を提出している場合に、裁判所が刑訴法386条1項1号の決定による控訴棄却を行わず、内容を審理して判決により控訴を棄却することは適法か。
規範
刑事訴訟法386条1項1号による控訴棄却の決定は、控訴申立人が法定の期間内に控訴趣意書を控訴裁判所に差し出さないときに限ってなされるものである。期間内に適法な控訴趣意書が提出されている場合には、同条の適用はなく、裁判所は内容を審理した上で判決を言い渡さなければならない。
重要事実
被告人の弁護人(坂谷)は、法定期間内に控訴趣意書を提出した。その内容は、第1審の量刑不当を主張しつつ、その一部において、被告人の行為は業務上横領ではなく背任または単純横領として観察すべきである旨(事実誤認の主張を含むもの)を述べていた。これに対し、原審は控訴棄却の決定ではなく、内容を判断した上で判決によって控訴を棄却した。
あてはめ
本件では、期間内に弁護人から控訴趣意書が差し出されており、同号の規定する「控訴趣意書を差し出さないとき」には該当しない。原審は、提出された趣意書に含まれる「背任又は単純横領として観察すべき」との主張を事実誤認の主張と捉え、「事案の性質上、主張するような事実誤認は認められない」と実体的な判断を示している。したがって、決定ではなく判決により控訴を棄却した原審の処置は、刑訴法の規定に照らし正当である。
結論
期間内に控訴趣意書が提出された場合には刑訴法386条1項1号は適用されないため、原審が実体判決により控訴を棄却したことに違法はない。
実務上の射程
控訴審における終了形式の区別に関する基本判例である。控訴趣意書の未提出という形式的瑕疵がない限り、裁判所は不服申立ての内容について判断すべきであり、決定による簡易な終了は許されないことを示している。答案上は、控訴趣意書の提出の有無や期間遵守の成否が問題となる場面で、裁判所の取るべき手続を確定させる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)309 / 裁判年月日: 昭和26年7月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本判決は、刑事訴訟法405条の上告理由に該当せず、かつ同法411条を適用して職権で判決を取り消すべき事由も認められない場合には、上告を棄却すべきであることを示した。 第1 事案の概要:被告人が原判決に対して上告を申し立てた事案。弁護人が提出した上告趣意書の内容について検討が行われた。なお、具体的な…