一 原審の確定した事実関係の下においては、本件行為が岐阜県販売農業協同組合連合会の事業の範囲外の行為であつて、農業協同組合法に違反するものであるとした原審の判断は正当である。 二 (原判決の要旨)被告人A等が販連の資金をその事業の範囲外において融資(貸付)することは、販連定款及び農業協同組合法により固く禁止されており、これに違反することはその任務に背く行為であるのにかかわらず、同人等はその情を知りながら役員会に諮りB活性炭株式会社に対し事業資金の融資を図らんことを決意し、B、C等と共謀の上、同年度第十回役員会を開催し「活性炭素取扱に関する件」と題する議案を提出して、販連より同社に対し融資(貸付)をする旨の議決をなした上、その後右融資を隠蔽するため……同組合をして架空または虚偽の内容を記載した薪炭発送報告書(空発報と略称)を作成してこれを販連に送付させ、そして同空発報にもとずき販連より同社に対し融資する旨を決定し……販連に対し財産上の損害を加えた。 三 業務上横領の控訴事実につき、訴因変更の手続を経ないで、背任の犯罪事実を認定しても差支えない。 四 (公訴事実の要旨)被告人Dは岐阜県販売農業協同組合連合会の会計主任として……いたものであるが被告人B、Cより依頼を受け、共謀の上E銀行F支店の普通預金として業務上保管中の販連の資金中より百五十万円を引出し、ほしいままにG化工株式会社の設立資本金として利用する目的をもつて同銀行の被告人B名義の普通預金口座に入金して横領したものである。 五 (原審認定の要旨)販連の会計主任として……いた被告人Dは第三者の利益を図り、その任務に背き、或いは本人たる販連に財産上の損害を加うべきことを認識しながら、業務上保管中の販連の資金中より百五十万円を販連名義をもつてG化工株式会社に不正融資(貸付)し、その結果、右金員の回収を不能ならしめて、販連に同額の財産上の損害を加えたものであるから、背任罪を構成する。
一 背任罪(農業共同組合法違反)の成立する事例。 二 訴因変更の手続を要しない事例。―業務上横領と背任
農業協同組合法1条,農業協同組合法10条,刑法247条,刑法253条,刑訴法312条
判旨
業務上横領の訴因に対し、訴因変更手続を経ることなく背任罪の犯罪事実を認定しても、公訴事実の同一性を害さず、かつ被告人の防御権に実質的な不利益を生ずるおそれがない限り、直ちに違法とはならない。
問題の所在(論点)
業務上横領罪の訴因に対し、訴因変更手続(刑訴法312条1項)を経ずに背任罪を認定することが許されるか。特に、公訴事実の同一性と防御権の保護が問題となる。
規範
裁判所が訴因変更手続を経ずに訴因と異なる事実を認定できるかは、①認定事実が公訴事実の同一性(刑訴法312条1項)の範囲内にあるか、及び②被告人の防御権に対する実質的不利益の有無により決する。両罪が構成要件的に重なり合い、具体的な審理経過に照らして被告人に不測の不利益を与えない場合には、訴因変更なしでの認定が可能である。
重要事実
被告人らは業務上横領罪の公訴事実で起訴されたが、原審は訴因変更の手続を経ることなく、背任罪の犯罪事実を認定して有罪とした。これに対し被告人側は、訴因変更手続なしに異なる事実を認定することは訴訟法違反であり、被告人の防御権を侵害するものであるとして上告した。
あてはめ
まず、業務上横領と背任は、いずれも他人の事務を処理する者が自己または第三者の利益を図り本人に損害を与えるという点で共通性があり、公訴事実の同一性を害するとは認められない。次に、本件の審理経過に照らせば、被告人らは事実取調において意見弁解を述べる機会を与えられており、訴因変更がなされなかったことで被告人の防御権に実質的な不利益を生ぜしめたおそれはないと解される。したがって、手続を履践せず背任罪を認定した原審の判断は正当である。
結論
業務上横領の訴因から訴因変更なしに背任罪を認定することは、公訴事実の同一性を害さず防御権への実質的不利益がない限り適法である。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する基本的判例の一つ。特に「横領」と「背任」の間の縮減認定(または構成要件的重複に基づく認定)の可否を論じる際の根拠となる。防御権の不利益については、具体的な審理経過(事実関係の争点化)に留意してあてはめる必要がある。
事件番号: 昭和30(あ)737 / 裁判年月日: 昭和32年4月30日 / 結論: 棄却
一 第一審が業務上横領罪の訴因、罰条について判決した事件について、控訴審が背任の点についても既に十分な証拠調がされているというだけの理由で、未だ任務に背いたか否かの点について十分な防禦を尽していると認められないのにかかわらず、背任について訴因罰条の追加、変更なしに審判することは違法である。 二 A公団BA局長が先に従業…