被告人は某日午後一一時四〇分頃千葉県印幡郡a町a某病院前付近の道路上において、甲の保管にかかるその兄所有の腕時計一個を窃取したとの事実(主たる訴因)と、被告人は前同日時場所において、甲と乙が喧嘩闘争をする際、甲がその場に脱ぎ捨てたジヤンバーのポケツトから路上にころがり出た右時計一個を拾得して甲のため占有保管し、その翌日乙をして右時計を甲に届けさせるために乙に預け、同人において甲のためこれを占有保管中、同日乙と共謀の上、右時計を同町a某質店に入質横領したとの事実(予備的追加訴因)の間には、公訴事実の同一性がある。
公訴事実に同一性の認められる事例
刑訴法312条,刑法235条,刑法252条1項
判旨
窃盗の訴因と横領の訴因とは、公訴事実の同一性を有する。そのため、審理の経過に照らして被告人の防御に実質的な不利益が生じない限り、検察官の予備的訴因の追加請求を容れ、窃盗から横領へと認定を変更することは適法である。
問題の所在(論点)
窃盗の訴因と横領の訴因との間に公訴事実の同一性が認められるか。また、一審で窃盗とされた事実を控訴審で横領に変更することが、被告人の防御権を侵害し訴訟法上違法とならないか。
規範
公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)が認められるためには、両訴因の基礎となる基本的事実関係が共通していることを要する。また、訴因変更の手続きが適法であるためには、単に公訴事実の同一性があるのみならず、審理の経過に照らして被告人の防御に実質的な不利益を生じさせないことが必要である。
重要事実
第一審判決において被告人は窃盗罪で認定されていた。これに対し、控訴審(原審)の審理過程において、検察官が横領の訴因を予備的に追加する請求を行った。原審はこの追加請求を容れ、第一審の窃盗罪の認定を変更し、横領罪を認定した。これに対し、被告人側が訴訟法違反等を理由に上告した事案である。
あてはめ
本件における窃盗の訴因と横領の訴因は、客体や行為の態様において共通性を有しており、公訴事実の同一性が認められる。また、審理の経過を検討すると、検察官による予備的訴因の追加請求の手続きを経て認定が変更されており、このプロセスによって被告人の防御に実質的な不利益が生じたとは認められない。したがって、訴因変更の手続きに違法はないと評価される。
結論
窃盗と横領は公訴事実の同一性を有し、かつ防御に実質的不利益もないため、訴因変更による認定は適法である。
実務上の射程
窃盗と横領(特に占有離脱物横領)の間の訴因変更の可否を論じる際のリーディングケースとして利用できる。公訴事実の同一性の肯認のみならず、『被告人の防御に対する実質的不利益の有無』という観点から、審理の適正さをチェックする枠組みを示すものである。
事件番号: 昭和33(あ)1581 / 裁判年月日: 昭和36年11月10日 / 結論: 棄却
本件の如く、業務上横領罪の訴因を肯定した第一審判決の認定に対し、被告人が控訴審において判示金員に対する被告人の占有は業務に基くものでないから業務上横領罪が成立しない旨抗争している場合において控訴審が右の主張を理由があるとして単純横領罪と認定するには訴因変更の手続を経ることを要しないものと解する。
事件番号: 昭和30(あ)3376 / 裁判年月日: 昭和33年5月20日 / 結論: 棄却
一 「被告人はA株式会社代表取締役として同会社の営業を総理しているものであるが、昭和二五年七月一四日頃同会社において被告人保管にかかる同会社資金中より甲が同人所有にかかる同会社株式一万株を被告人に譲渡する代金として金五〇万円を同会社会計課長丙をして勝手に右甲に対し支払わしめて横領した」旨の業務上横領の訴因と、「被告人は…