一 公訴犯罪事実について、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項は、起訴状に記載することは許されないのであつて、かかる事項を起訴状に記載したときは、これによつてすでに生じた違法性は、その性質上もはや治癒することができないものと解するを相当とする。 二 本件起訴状によれば、詐欺罪の公訴事実について、その冒頭に、「被告人は詐欺罪により既に二度処罰を受けたものであるが」と記載しているのであるが、このように詐欺の公訴について、詐欺の前科を記載することは、両者の関係からいつて、公訴犯罪事実につき、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項にあたると解しなければならない。もつとも被告人の前科であつても、それが、公訴犯罪事実の構成要件となつている場合(例えば常習累犯窃盗)又は公訴犯罪事実の内容となつている場合(例えば前科の事実を手段方法として恐喝)等は、公訴犯罪事実を示すのに必要であつて、これを一般の前科と同様に解することはできないからこれを記載することはもとより適法である。
一 公訴犯罪事実につき裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項を起訴状に記載することの違法性 二 詐欺の起訴状に詐欺の前科を記載することと裁判官の予断
刑訴法256条,刑法246条
判旨
起訴状に裁判官の予断を生ぜしめる事項を記載することは、刑訴法256条6項の趣旨に反し、その違法性は治癒されない。詐欺の公訴事実に同種前科を記載することは原則として本項に違反し、公訴棄却を免れない。
問題の所在(論点)
起訴状に累犯加重の原由となる前科を記載することが、刑訴法256条6項の「裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある事項」の記載として禁止されるか。また、その違反の効力はどうなるか。
規範
刑訴法256条6項(起訴状一本主義)は、裁判官が白紙の状態で公判に臨むことを保障し、公平な裁判を客観的に担保するものである。したがって、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項を起訴状に記載することは許されず、これに違反した場合には治癒することのできない違法が生じる。ただし、前科が公訴犯罪事実の構成要件や内容をなす等の特段の事情がある場合は記載が許容される。
重要事実
検察官が被告人を詐欺罪で起訴する際、起訴状の冒頭に「被告人は詐欺罪により既に二度処罰を受けたものであるが」との前科事実を記載した。これに対し、弁護人が起訴状一本主義違反を主張した事案である。
あてはめ
本件で記載された詐欺の前科は、公訴事実である詐欺罪との関係から、裁判官に予断を生ぜしめるおそれがある。検察官は累犯加重の罰条摘示と同じ趣旨だと主張するが、前科は量刑事情に過ぎず、証拠調べ段階(刑訴法296条)で明らかにすれば足りる。本件前科は構成要件や犯罪内容そのものを構成する特段の事情もない。したがって、起訴状への記載は不当であり、これによって生じた違法は性質上治癒されないと評価される。
結論
本件起訴状の記載は刑訴法256条6項に違反する。この違法は治癒されないため、公訴棄却の判決を維持した原判決は正当である。
実務上の射程
起訴状一本主義違反が「公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき」(刑訴法338条4号)に該当することを確認した重要判例である。答案上は、予断を排除し白紙状態で臨ませるという趣旨から説き、本件のような前科記載が「余事記載」として公訴棄却事由になることを論じる際に用いる。
事件番号: 昭和27(あ)5538 / 裁判年月日: 昭和29年3月23日 / 結論: 棄却
一 公判調書における文字の挿入削除が刑訴規則第五九条所定の方式を欠いていても、ただちにその挿入削除を無効とすべきではなく、その効力の有無は、裁判所が諸般の状況に照して合理的な裁量により決すべきものである。 二 「被告人はA税務事務所に勤務中、B日頃、かねて同税務事務所滞納整理係Cから徴収方依頼を受けていた納税者D会社よ…
事件番号: 昭和41(あ)549 / 裁判年月日: 昭和41年9月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴状に前科を記載することは、刑罰の加重事由の特定として必要最小限の範囲内であれば、起訴状一本主義(刑訴法256条6項)に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が起訴された際、検察官は起訴状に被告人の前科に関する事項を記載した。弁護人は、この記載が裁判官に予断を生じさせるものであり、起訴状一本主義…