会社社長が同会社に支払見込並能力なきに拘らずこれを秘して取込詐欺をしたという詐欺の起訴状に、右会社の経理状態について具体的に記述することは、刑訴第二五六条第六項に違反しない。
刑訴第二五六条第六項に違反しない一事例
刑訴法256条6項
判旨
起訴状に公訴事実を裏付ける具体的な状況を記載しても、それが犯罪事実の内容を構成するか、あるいはそれと密接不可分な関係にあるものであれば、起訴状一本主義に違反しない。
問題の所在(論点)
起訴状に、被告人の経済的困窮や支払能力の欠如といった、犯罪事実の背景となる具体的な主観的・客観的事情を詳細に記載することが、刑事訴訟法256条6項の「裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある書類その他の物を添付し、又はその内容を引用」することにあたり、起訴状一本主義に違反するか。
規範
刑事訴訟法256条6項が定める起訴状一本主義の趣旨は、裁判官に予断を生じさせないことにある。しかし、公訴事実を特定し、あるいはその内容を具体的に裏付けるために必要な記載であれば、公訴犯罪事実の内容をなすもの、または少なくともそれと密接不可分な関係にあるものとして、同項に違反しない。
重要事実
被告人が詐欺罪で起訴された際、検察官は起訴状において、被告人が代金を支払う見込みや能力がなかったことを示すため、「会社が営業不振で約300万円の負債を抱え、債権者から厳重な督促を受けていた」「商品の転売代金を支払に充当しなければ他に捻出方法がない状態であった」「転売先からの前渡金を費消し、他に入金予定がなかった」といった具体的な経営・財務状況を詳細に記載した。
あてはめ
本件起訴状の記載は、詐欺罪における「代金支払の見込みおよび能力がなかった事実」という公訴事実の内容を、より明らかかつ具体的に裏付けるものである。このような事実は、本件の公訴犯罪事実の内容そのものを構成しているか、あるいはそれと密接不可分な関係にあると認められる。したがって、これらの記載は裁判官に不当な予断を生じさせる余事記載(証拠の引用)にはあたらず、適法な記載の範囲内であるといえる。
結論
本件起訴状の記載は刑事訴訟法256条6項に違反せず、公訴提起の手続きは有効である。
実務上の射程
詐欺罪における欺罔意思を基礎付ける事情(支払能力・意思の欠如)や、殺意を基礎付ける事情など、構成要件要素に直結する具体的状況の記載は、密接不可分なものとして許容される傾向にある。ただし、余罪や悪性格を強調するような記載は予断排除の観点から制限されるため、事案ごとに構成要件との関連性の強さで判断すべきである。
事件番号: 昭和26(れ)553 / 裁判年月日: 昭和27年2月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公訴事実を特定するに際し、司法警察官の事件送致書記載の事実を引用することは許容され、また内容を明らかにするための紙片の貼付も起訴状の方式に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が詐欺罪等で起訴された際、検察官が提出した公判請求書(起訴状)には、公訴事実として司法警察官の事件送致書に記載された犯罪事…