本件の第一審判決説示のごとく詐欺の意思を除く以外の事実は、すべて認められると認定しているような場合には、被告人を公判廷で公訴事実その他につき質問し、原控訴判決が証拠とした被告人の検察官に対する供述調書の措信すべきや否や等につき取調をなせば、その余の証拠につき直接取調をしなくとも、控訴審が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言渡した一審判決を破棄し、被告人に有罪の判決を言渡しても刑訴第四〇〇条但書の規定に違反しない
刑訴法第四〇〇条但書に違反しない事例
刑訴法400条
判旨
検察官による上訴および控訴審での無罪から有罪への変更は、憲法39条の二重の危険の禁止に違反しない。また、被告人への直接質問等の事実取調べを経れば、第一審判決を破棄して自判(刑訴法400条但書)することも適法である。
問題の所在(論点)
検察官の上訴により第一審の無罪を有罪に変更することが憲法39条(二重の危険)等に違反するか。また、控訴審が一部の証拠を直接取り調べずに第一審を破棄して有罪を自判することが適法か。
規範
1. 検察官の上訴制度は、被告人を重ねて刑事上の責任に問うものではなく、憲法39条が禁ずる二重の危険にはあたらない。2. 控訴審が第一審の無罪判決を破棄して自ら有罪を言い渡す(刑訴法400条但書)には、被告人を公判廷で質問し、事実関係や供述の信用性について必要な事実の取調べを行うことを要する。
重要事実
詐欺被告事件において、第一審は詐欺の意思を否定して無罪を言い渡したが、検察官が事実誤認を理由に控訴した。控訴審(原審)は、第二回公判期日に被告人を出頭させ、公訴事実や支払能力について詳細な質問を行った。その結果、当時の収入(月収7,000円〜9,000円)に対し一回の飲食代(2,000円〜4,000円)が多額で支払能力を欠いていた事実を認定し、第一審を破棄して有罪を言い渡した。被告人は検察官上訴の違憲性と、証拠の直接取調べを欠く自判の違法を主張して上告した。
あてはめ
検察官上訴については、判例の趣旨に照らし、重ねて責任を問うものではない。自判の適法性については、原審は被告人を公判廷に召喚し、犯行当時の収入状況、母への仕送り、飲食の頻度等の経済状況について詳細な供述を得ている。第一審が詐欺の意思以外の事実を認めていた状況下では、被告人への質問を通じて供述調書の信用性を判断すれば、他の証拠を直接取調べなくとも、自ら事実を確定して有罪を言い渡すための「事実の取調べ」として十分である。したがって、刑訴法400条但書の要件を満たし、憲法31条にも反しない。
結論
検察官上訴および控訴審での無罪から有罪への自判は合憲・適法であり、本件上告を棄却する。
実務上の射程
検察官上訴の合憲性を前提とした上で、刑訴法400条但書による自判の限界を示す。第一審の無罪判決を覆す場合でも、公判廷での被告人質問等により心証形成の基礎を得ていれば、必ずしも全ての証拠を直接取り調べる必要はないとする実務上の指針となる。
事件番号: 昭和31(あ)900 / 裁判年月日: 昭和32年5月24日 / 結論: 棄却
検察官が一旦不起訴にした犯罪を後日起訴しても、憲法第三九条に違反するものではない。
事件番号: 昭和33(あ)701 / 裁判年月日: 昭和33年6月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴裁判所が事実の取調べをすることなく、訴訟記録と第一審の証拠のみに基づき、第一審の量刑を不当として被告人に不利益に変更することは、憲法および刑訴法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人に対し、第一審は懲役1年の判決を言い渡した。これに対し検察官が量刑不当を理由に控訴したところ、控訴審(原審)は…